(その46)「金閣炎上」(水上勉著)を読んで
61年前、昭和25年(1950年)7月2日の未明、京都北山の鹿苑寺金閣が寺僧の放火によって全焼した。
以前からこの事件について興味があり、学生のころ三島由紀夫の「金閣寺」を読んで感銘を受けたが、最近古書店で見つけた水上勉の「金閣炎上」に、三島作品とは全然違う感動を味わった。今回、水上作品によって、あらためて事件の経緯を知った次第。
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ノンフィクション形式で語られていくので、臨場感がある。なんといっても、事件現場からほど近いところに住む私には、京都市内の地名のひとつひとつが身近なものとして感じられる。放火犯の通っていた「花園中学」、当時遊郭のあった千本出水~中立売かいわい。西陣署のあった千本今出川交差点付近。そして金閣寺。読み進むにしたがって、ぜひともこの目で確かめたくなり、自転車を走らせてみた。往時をしのばせる建物や雰囲気は全くない。残念だが、やむを得ない。
それにしても解せないのは、新潮文庫に収められていたこの小説が、現在絶版となっていることだ。事件が起きた61年前は戦後の混乱期だった。金閣が再建され、シーズンにはおそらく日々数千人単位で訪れる観光客にとっては、金閣が焼失したことなど、もはや眼中にも、記憶にもないのだろうか。
事件の真相はともかくとして、水上勉がこの作品に最も願っていたのは、読み継がれてほしいということではなかっただろうか。周到に取材し、真偽を吟味したうえで書かれているだけに、絶版と言うのは残念でならない。
三島由紀夫の「金閣寺」と合わせて読みたい一冊だと思います。
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写真みたでー
おじさんすごいなー
投稿: みるく | 2011年10月14日 (金曜日) 21時20分