「戀愛名歌集」(萩原朔太郎著)を読んで
この本、いまも出版されているのかしらん?
著者の序言には「西暦1930年(昭和5年)春」とありますが、私が読んだのは昭和33年4月10日発行の角川文庫(三版)。数年前、百万遍の古本まつりで買い求めたものです。この記事を書くにあたってネット検索したところ、Amazonではと~っても高額にて出品されていたのでビックリした次第。
万葉集、古今集、六代歌集、新古今集の秀歌を朔太郎の感覚で選歌し、簡単な解釈&鑑賞のポイントを記しています。恋愛名歌集とありますが恋の歌ばかりではなく、朔太郎が強調するのは日本語の韻律です。巻末には総論として万葉集から新古今集までの各歌集の概要と変遷を述べています。
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【ほととぎす鳴くや五月の菖蒲草あやめも知らぬ恋もするかな】
古今集の中でも特に私の好きな歌です。ほととんぼというニックネームの半分はこの歌に由来します。朔太郎はこう評しています。(同文庫版54ページ)
『…ああ、このロマンチックな季節! 何ということもなく、知らない人もそぞろに恋がしたくなるという一首の情趣を、巧みな修辞で象徴的に歌い出している。表面の形態上では、上三句は下の「あやめも知らぬ恋もするかな」を呼び起こす序であるけれども、単なる序ではなくして、それが直ちに季節の風物を写象しており、主観の心境と不離の有機的関係で融け合っている。しかも全体の調子が音楽的で、丁度そうした季節の夢みるような気分を切実に感じさせる。けだし古今集中の秀逸であろう。』
この文章は私の思いをすべて言いつくしています。大賛成です。また巻末の「万葉集に就いて」では、
『(歌が)「解り易い」というのは、文字の古義的注解の意味ではなくして“詩が歌おうとしている情操から同感共鳴を持つこと”をいうのである→この点で「万葉集」はわかりやすく「古今集」「新古今集」はわかりにくい 』
と述べ、正岡子規とは違う面から万葉集を評価しています。子規と朔太郎の違いは他の著書、たとえば子規の「俳人蕪村」を読んだのちに朔太郎の「芭蕉私見」を読めばより一層はっきりすることでしょう。朔太郎の詩論は、和歌・俳句などを音楽としてとらえていることに尽きます。この本、たいていの有名な歌が収録されています。気になる歌を見つけてどこからでも読めます。今までに読んだ和歌の解説(解釈)本の中で、もっとも私にフィットした名著ですね。
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