嘉陵夜有懐(白楽天)
【嘉陵夜有懐 其二(かりょうのよる かいあり そのに)】
不明不闇朦朧月(あかるからず くらからず もうろうのつき)
非暖非寒慢慢風(あたたかからず さむからず まんまんのかぜ)
独臥空牀好天気(ひとりくうしょうにふせば こうてんき)
平生閒事到心中(へいせいのかんじ しんちゅうにいたる)
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(意訳)
【嘉陵の夜に思うことあり。その二】
明るからず暗からず、おぼろ月が出ている。暖かからず寒からず、まんまんの風が吹いている。ひとり寝床に臥している私に天気はおだやかだ。(なのに)普段のつまらぬことばかりが心の中に浮かんでくる…。
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「明るからず暗からず」、「暖かからず寒からず」。こういう言い回し大好きです。 読み下し方によっては「明(めい)ならず暗(あん)ならず」、「暖(だん)ならず寒(かん)ならず」とも読めますが、断然、「あかるからずくらからず」、「あたたかからずさむからず」がいいです。読み下し文としてはどちらでもいいのですから、われわれ日本人に伝わる力の違いをみるべきです。日本語の響きが違います。そして「慢慢の風」がすばらしい。この一言だけで詩全体に「春の夜」のイメージが、それこそ満々に湧いてきます。
「嘉陵」というのは白楽天の親友元稹が派遣されていた蜀(四川省)の地名です。この詩は元稹の詩に白楽天が和して詠んだものだそうです。白楽天と元稹は本当に親友だったらしく、お互いいつも相手を思い浮かべていたのでしょう。ほかにも「八月十五日夜禁中独直対月憶元九」などがあります。
また、新古今集にある大江千里の
【照りもせず曇りもはてぬ春の夜の朧月夜にしくものぞなき】
は、この詩をベースに翻案したものです。春の夜のイメージをよくとらえた名歌ですが、白楽天あっての大江千里ということです。
※一句目の「朦朧月」と四句目「平生閒事」はテキストによっては「朧朧月」、「平明閒事」になっています。今は岩波新書「大衆詩人 白楽天(片山哲著)」に従いました。ほととんぼは漢詩に精通しているわけではありません。解釈等は参考程度に読んでください。
【194】
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