六道珍皇寺と小野篁(今昔物語集巻二十より)
京都東山、六波羅蜜寺からほど近い六道珍皇寺(ろくどうちんのうじ)を紹介してみます。
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東山のこのあたりは六道の辻と呼ばれています。いにしえの葬送の地鳥辺野に近く、この世とあの世の境目なのだそうです。六道輪廻。人間は生まれ変わっても、天道・人間道・修羅道・畜生道・餓鬼道・地獄道の間をうろうろするという、その六道の辻です。
(門前の石碑)
(閉鎖された建物)
境内にはなんともいえない、異様な雰囲気が漂っています。お堂がいくつかあるのですが、どれもオープンではありません。そんなに広くない敷地に、本堂、閻魔堂、迎え鐘などがあります。
(閻魔堂)
閻魔堂の格子からのぞくと、左側に閻魔大王の像が、右側に小野篁の像が安置されていました。結構大きなもので、ちょっと怖いです。
(本堂)
本堂です。障子が閉まっていました。大きな提灯に小野篁卿旧跡とあります。小野篁にはいろんな伝説がありますが、閻魔大王の臣下で、この世とあの世の間を行ったり来たりできたというのもそのひとつです。
(冥界への井戸)
その伝説を裏付けるかのように、格子戸の向こうに地獄(冥界)へ通じる井戸がありました。階段を上がって、のぞいてみました。
向こうの方に井戸が見えますが、ここからのぞくだけです。
格子の中を拡大して撮影してみました。たしかに中央に井戸らしきものが見えます。小野篁はこの井戸から、冥界を行き来していたということで、出口は嵯峨にあったそうです。現在でも嵯峨六道町という地名が残っています。
最後に、小野篁に関する不思議な話がありました。
今昔物語集 巻二十
【小野篁、情によりて西三条の大臣を助けたる語】 第四十五
以下、意訳してみます。
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今は昔、小野篁という人がいた。
学生だったころ、ある事件で罪を得たが、当時は宰相(参議)だった西三条の大臣良相という人が、ことに触れて弁護してくれたのを、篁は心中感謝していた。そうして年月が過ぎ、篁は宰相になり良相は大臣になった。
良相大臣は重い病にかかり、数日を経て死んでしまわれた。すぐに閻魔大王の使いがやってきて縛られ、生前の罪を調べられることになった。閻魔王宮に連れてこられ、居並ぶ閻魔大王の家臣たちを見ると、中に小野篁がいた。大臣が “これはいったいどういうことだ”と不思議に思っていると、篁は笏(しゃく)をとって閻魔大王に申し上げた。
「この日本の大臣は心が正しく、人のために役立つ人物です。今回の罪は私に免じて許してやってください」
閻魔大王は言った。
「それはなかなか難しいことだが、篁がそこまで言うのだから許してやろう」
篁が使いの者に「速やかに連れて帰りなさい」と指図すると、良相大臣は即座に生き返った。重病だったのが次第によくなり、“あの冥途での出来事はいったいどういうことなのだろう?” と不思議に思ったものの誰にも語ることなく、また、篁に問うてみることもなかった。
ところが、あるとき大臣が内裏に参内していつもの席につくと、参議篁がそばにいた。二人以外に人はなく、大臣は、「これはよい機会だ、この際冥途での出来事を聞いてみよう。あれ以来、どうにも不思議で仕方なかったのだ」と、篁の近くまで行って小声で話しかけた。
「いままで聞く機会がなかったが、あの冥途での出来事はきわめて忘れがたい。そもそもあれはどういうことなのか」
篁は少し微笑みながら答えた。
「昔、親切にしていただいたことがうれしくて、そのお礼にしたことです。ただし、決して人にはおっしゃらないでください。だれも知らないことですから」
その言葉を聞いた大臣はいよいよ不思議に思って、篁はタダものではない、閻魔王宮の臣下なのだと気がついて、いろんな人をつかまえては“人には親切にしておかないといけないよ”と、ていねいに教え諭されるのであった。
こういう奇妙な出来事は自然と世の中に広まって、小野篁という人は閻魔王宮の臣下としてこの世とあの世とを行き来することができるのだと、人々はみんな知って、不思議な怖いことがあるものだ、と語り伝えられているのである。
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藤原良相(ふじわらのよしすけ? よしみ? よしあう?…いろんな読み方をされているようです)813年-867年→平安時代前期の公卿、正二位右大臣。
小野篁(おののたかむら)802年-853年→平安時代前期の官人、学者、歌人、従三位、参議。
閻魔大王(えんまだいおう)→仏教やヒンドゥ教などでの地獄の主。死者の生前の罪を裁く神。
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