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2012年6月13日 (水曜日)

いとせめて恋しき時はむばたまの夜の衣を返してぞきる(夢の話1)

好きな人の夢を見るために衣を裏返して寝る…、古典の授業で聞いた方も多いと思います。 これって、いったいどうしてなのでしょうか? 

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いくつかの解説本やネットで調べてみました。でも、衣を裏返して寝ると好きな人の夢を見る理由については、ただ 『そういう俗信があった』、『民間信仰があった』、『~と言われている』 等の説明だけで、ほとんど解答らしいものは見つかりませんでした。残念ながら「わからない」というのが、答えのようです。ただ、表現の仕方に、時代によって若干の違いのあることがわかりました。

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万葉集には、

吾妹子に恋ひてすべなみ白たへの袖かへししは夢に見えきや(万葉集巻11-2812)

意訳:恋しくてどうしようもないので袖を裏返して寝ましたけど、あなたの夢に私があらわれたでしょうか。

わが背子が袖返す夜の夢ならしまことも君に逢へりしごとし(万葉集巻11-2813)

意訳:あなたが袖を返して寝たからに違いない。まさにあなたにお逢いしているよう(な夢見)でしたよ。

という贈答歌があり、万葉のころは『袖を裏返して寝ると、好きな相手の夢にあらわれる』と考えられていたようです。ところが平安時代になると、小野小町の歌のように、

いとせめて恋しき時はむばたまの夜の衣を返してぞきる(古今集巻12-554)

意訳:とってもとっても思いつめて恋しいときは、夜の衣を裏返しに着て寝るのだわ(そうすると恋しい人が夢にあらわれるから)

また読み人知らず、

白露のおきてあひ見ぬことよりは衣(きぬ)かへしつつねなむとぞ思ふ(後撰集巻12-826)

意訳:夜、起きたままで恋しい人が来るのを待つような(はかない)ことをするより、いっそ衣を裏返して寝ようと思うわ。

という歌のように、『衣を裏返しに着て寝たら、好きな人の夢をみる』と変化していきます。

袖から衣への変化は、万葉のころは筒袖(パジャマ)を着て寝ていたのが、平安時代になると着物を着て寝るようになったからのようです。そしてもうひとつ、ヒントになるのがきぬぎぬ(衣衣・後朝)です。当時、男女が同衾するときは、お互いの着物を重ね合わせて一つになって寝ました。夜が明けてお互いがそれぞれの着物を身につけて別れることを「きぬぎぬの別れ」と言い、歌のやりとりなどを行います。

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昔々、ある女性が、一人寝の夜にあたかも恋人と一緒にいるかのような雰囲気を味わいたくて、自分の着ているものを裏返しにして寝てみました。すると夢の中に恋人があらわれて、さらにエッチな気分に…、「あら、これはご利益があるわ」と、さっそく人に話します。

『ねぇねぇ、夕べ寝巻を裏がえしに着て寝てみたら、好きな人の夢を見て、ちょっとしたきぬぎぬの気分になれたわよ。あなたも一度試してみてはどう? 最近オトコが来なくなったみたいだしさぁ~』

なんて、女房の間で、ウワサとなって広まっていったのかもしれませんね(笑)

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