八文で家内が祝ふ氷かな(一茶)
【八文で家内が祝ふ氷かな】(はちもんでかないがいわうこおりかな)
一茶の七番日記、文化十二年(1815年)六月に載っている句で、江戸時代にも信州や北陸では真夏に氷が売られており、庶民でも買うことができたとされています。
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当時は六月一日(旧暦、2012年の場合7月19日)に将軍家や藩主に氷を献上することになっていて、御用の氷・御用の雪と呼ばれていました。七番日記の同じ文化十二年六月の項には、次のような句もあります。
【虻蠅も脇よれ御用の氷ぞよ】(あぶはえもわきよれごようのこおりぞよ)
意訳→献上の氷が運ばれていくぞ。恐れ多いから、アブもハエも道の脇に寄れよ。
【御用の雪御傘と申せみさむらひ】(ごようのゆきみかさともうせみさむらい)
意訳→(カンカン照りの日をあびて献上の雪が融けてしまう)おつきの方よ、御用の雪に傘をかけるように言ってあげてください。
※古今集の東歌に「みさぶらひ御傘と申せ宮城野の木の下露は雨にまされり」(1091)があります。この歌は「みさぶらひ」「みかさ」「みやぎの」と「み」が蓮続する大変語呂のよい歌で、源氏物語や奥の細道にも引用されています。一茶の句はパロディです。
「虻蠅も」の句は、有名な「雀の子そこのけそこのけ御馬が通る」と同じ意味でしょうか。茶化した言い回しの中にも真剣な意味を持たせた一茶独特の表現です。また「御用の雪」のほうは、古今集の歌をベースにして滑稽句に仕立てあげています。
一茶が家内で祝ったという氷ですが、八文といえば現代の金銭感覚では三百円~四百円くらいでしょうか。かき氷とほぼ同じくらいの値段です。冷凍庫、冷蔵庫もない時代、将軍に献上されるような貴重品にもかかわらず、庶民でも手に入ったことには驚きます。
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