馬ぼくぼくわれを絵に見る夏野哉(芭蕉)
【馬ぼくぼくわれを絵に見る夏野哉】(うまぼくぼくわれをえにみるなつのかな)
この句、芭蕉の推敲の跡がわかる句として知られています。
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夏馬の遅行われを絵に見る心かな(かばのちこう われをえにみるこころかな)
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夏馬ぼくぼくわれを絵に見る心かな(かばぼくぼく われをえにみるこころかな)
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馬ぼくぼくわれを絵に見ん夏野かな(うまぼくぼく われをえにみんなつのかな)
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馬ぼくぼくわれを絵に見る夏野かな(うまぼくぼく われをえにみるなつのかな)
(参考:「芭蕉の世界」尾形仂著)
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並べてみると、はじめはぎこちない言い回しだったことがわかります。それが次第に洗練されてきて、「遅行」が「ぼくぼく」になり、「心」が「夏野」になりました。より客観的な表現に変化しています。そして、風景といい語呂といい、やはり最後の「馬ぼくぼくわれを絵に見る夏野哉」が優れているようです。これも芭蕉の言う舌頭に千転した結果なのでしょう。
ところでこの句、手元にあるどの解説本を読んでも、濁音の
『馬ぼくぼく』
なんですね。でも、現代のわれわれからみると
『馬ぽくぽく』
のほうが、より馬のイメージに近いと思うんです。実際、いくつかのブログ記事には半濁音「ぽくぽく」の形で紹介されていました。現代人なら一度は聴いたことのある童謡「おうま」の、『おうまのおやこはなかよしこよし いつでもいっしょにぽっくりぽっくりあるく』という歌詞が、頭の中にこびりついているからでしょうか。ふと、そんなことを考えた次第です。
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