「万葉の人びと」(犬養孝著)を読んで
「万葉の人びと」(犬養孝著・新潮文庫)から、東歌を一首鑑賞します。
【信濃なる千曲の川の細石も君し踏みてば玉と拾はむ】(万葉集3400)
(しなのなるちぐまのかわのさざれしもきみしふみてばたまとひろわん)
以下、家人との会話です。
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「ブログネタを見つけようと思って、万葉集を読んでたら、いい歌を見つけたよ。【信濃なる千曲の川の細石も君し踏みてば玉と拾はむ】っていうんだけど、どうかな、すばらしいでしょう」
「また、ブログの話? はいはい今回は万葉集ですか。すばらしいもなにも、私には意味がわからないわ」
「それは失礼。意訳するとね、
信濃にある、千曲川の河原にころがっているなんでもない小石でも、好きなあなたが踏んだものならば、宝石と思って拾いましょう。
ってこと。ただの石ころでも、好きな人が踏めば、その人の魂が乗り移るんだ。この歌、たぶん女性が詠んだものと思うけど、もしかしたら好きなカレは不慮の事故で亡くなったか、どこか遠くへ旅立ったんじゃないかな。千曲川は事故現場、あるいはいつもデートしたのが千曲川の河原だった。小石は、いわば形見のようなもので、拾って宝物にするのだろうよ」
「ふ~ん、ただの石ころが宝物ねぇ。気持ちはわからなくもないけど、今どきの話じゃないね。二人が結婚前の事故なら仕方ないけど、結婚してたら、保険を掛けておくとか、毎月積立貯金をしておくとか、そんな小石じゃなくて本当の宝物を残していってほしいな。女心ってどんなときでも打算的なものよ。形見なんてそのときだけじゃない」
「さびしいことを言ってくれるねぇ。千三百年前の万葉集とは、女性の心も大きく変わったってことか。千三百年前に保険も貯金もあったものか。あるのは、好きなカレへの純粋な思いだけさ。キミならわかると思ったのに、それがわからないとはがっかりだ」
「いえ、わからないとは言ってません。ただ、あなたが不慮の事故や何かの都合で遠くへ行ってしまうときには、あとに残る私や子供のために、それなりの財産を残しておいてよ、ってこと。あなたが履いていたスリッパを、玉と思って残しておくなんてまずありえないから」
「はははは…それもそうだな。スリッパを形見にされるようでは、オレも情けないわな」
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さて、この歌「万葉の人びと」(犬養孝著・新潮文庫)に挿話とともに引用されています。
「万葉の人びと」は著者がNHKの放送で語った話が活字になっています。万葉集に対する情熱、思い入れの大きさが、その語り口にあらわれています。
万葉集なんて難しい、わからない、と思われる方があるとしたら、ぜひ一度読んでみてください。当記事では、せっかくの鑑賞が現実の話とすり替えられてしまいましたが、このあと家人に読んでもらったところ、さすがに感動して涙を浮かべておりました。おススメです。
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