物名歌
古今集の物名歌(ぶつめいか・もののなのうた)を鑑賞します。
物名歌というのは、お題に与えられた言葉(物の名前)を一首の中に読み込むものです。そのものズバリを詠むのではなく、暗号のように物の名を入れ、何が読み込まれているかクイズにして楽しむという、ちょっと知的な言葉遊びです。古今集巻十には物名歌ばかり47首が収められています。
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きちかうの花(桔梗の花)
440【秋近う野はなりにけり白露のおける草葉も色かはりゆく】(紀友則)
(あきちこうのはなりにけりしらつゆのおけるくさはもいろかわりゆく)
意訳:野原はすでに秋が近づいている。白露がおいている草葉も次第に色づいてゆく。
きちかう=桔梗(キキョウ)のことで「きちこう」と発音します。「秋近う」と「きちこう」をシャレています。物名歌では、題と歌の内容とは何の関係もありません。ただお題の言葉を入れればいいわけです。この歌は一句目から読み込んでいるので、難なくできたような感じがします。「きちこう、きちこう、きちこう…」と何度か口づさんでいるうちにポッと浮かんだのではないでしょうか。ただ、「きちこう」だけでなく「きちこうのはな」まで読み込んでいるのは、さすが友則です。古今集撰者だけのことはあります。ダジャレにしては、よくできています。
(桔梗)
かみやがは(紙屋川)
460【うばたまの我が黒髪や変るらむ鏡の影に降れるしらゆき】(紀貫之)
(うばたまのわがくろかみやかわるらんかがみのかげにふれるしらゆき)
意訳:私の黒髪も白く変わったのであろうか。鏡に映る私の姿には白雪が降っている。
紙屋川とは川の名前で、北野天満宮の西側を流れる小川です。かつて紙を漉いたのでこの名がついたそうです。二句目、三句目にまたがって、「わが黒髪や変るらむ」に読み込んだのはそれなりに苦労したと思われますが、「かみやかわ」「かみやかわ」…とつぶやいているうちに、「髪や変わるらむ」というフレーズは、意外と簡単に浮かんだのではないでしょうか。この歌も、ただのダジャレに過ぎませんが、言葉遊びとしてはとてもおもしろいです。
ダジャレの得意な方にはわかると思いますが、お題をもらったときに、何度も何度も口づさんでいると意外に連想が働くもので、目についた物を手あたり次第同音異義語に変えていくのがダジャレのコツです。ダジャレが受けるためには、その場のシチュエーションが重要です。この歌の場合は、紙屋川を知っているか知らないかで、おもしろさの度合いが違います。歌を理解し解釈するには、作者と読者のあいだに共通の認識がなければなりません。時には現場に行ってみることが必要です。
北野白梅町から東へすぐ、現在の紙屋川にかかる今出川橋です。
現在の紙屋川です。紀貫之が詠んだころの紙屋川はどんな姿だったのでしょうか? 千年以上の時の流れを想像するのも、古典の楽しみ方のひとつです。
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私も物名にチャレンジしてみました。この際、五七五で作ってみました。お題は「花園」です。京都市右京区の地名です。JR嵯峨野線に花園駅があります。
はなぞの(花園)
【花園の花ぞ野には謎の花】(ほととんぼ)
(はなぞののはなぞのにはなぞのはな)
意訳:花園の花だよ。野に謎の花が咲いている。
なんと! 「はなぞの」を三回も入れました。字足らずながらも語呂はいいので、われながら上出来と、ブログに残しておく次第です(笑)
写真は謎の花でもなんでもありません。先日わが家では、お墓参りに行ったのでした。
【429】
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