水一筋月よりうつす桂河(蕪村)…となせの滝
蕪村句集(岩波文庫)より
(となせの滝)
【水一筋月よりうつす桂河】
を鑑賞します。
(大堰川=桂川)
この句には「となせの滝」という前書きがついています。戸無瀬の滝というのは、嵐山付近の大堰川に流れ込む渓流とも、また大堰川自身の急流とも言われ、現在では場所の特定できない、いにしえの歌枕です。蕪村の句は探題「山城の名所づくし」による作とのことで、実際に現地で詠んだものではなさそうです。
【水一筋月よりうつす桂河】(みずひとすじつきよりうつすかつらがわ)
なんとなく幻想的なものを感じます。意訳してみると、
戸無瀬の滝から桂川(大堰川)に流れる一筋の水。見上げれば皓皓と照る月。あの月には桂の木が生えているというけれど、もしかしてこの流れは月に続く流れだろうか。歌枕の戸無瀬の滝が山城の名所として永遠に続くように…。
大堰川は場所によって保津川、大堰川(大井川)、桂川と名前が変わります。ここでは「桂川」と「月の桂」をかけています。月には桂の木があって、切っても切っても切り口が修復されるという伝説が中国にあります。細い流れながらも昔から続く歌枕の戸無瀬の滝と、永遠に切り倒されない桂の木とを連想させています。句作の手法としては、初句「みずひとすじ」の字余りで少し間を置き、全体に幻想的な雰囲気を持たせています。山城名所づくしという題にふさわしい句ではないでしょうか。注目されることは少ないですが、不思議と印象に残る句です。
一説によると戸無瀬の滝は、渡月橋から大堰川の右岸を上流へ、櫟谷(いちたに)神社から数百メートルのところにあったらしいです。
実際に歩いてみると、それらしい渓流? を見つけました。もちろん何の表示もありません。
渓流とはいえ、護岸工事がなされていました。
ーーーーー
戸無瀬の滝が歌枕というからには、かなりの歌に詠まれているはずです。調べてみました。
【嵐吹く山のあなたのもみぢ葉を戸無瀬の滝に落としてぞ見る】(続古今集・源経信)
【大井河ちるもみぢ葉に埋れてとなせの瀧は音のみぞする】(金葉集・大中臣公長)
【惜しめどもよもの紅葉は散果ててとなせぞ秋の泊なりける】(金葉集・春宮大夫公実)
【あらし山花よりおくに月は入りて戸無瀬の水に春のみのこれり】(橘千蔭)
機会があれば、これらの歌も鑑賞してみようと思います。
【446】
« 吹きはらふ紅葉の上の霧はれて峰たしかなる嵐山かな(定家) | トップページ | 御火焚や霜うつくしき京の町(蕪村) »
「 勝手に鑑賞「古今の詩歌」」カテゴリの記事
- 夏風邪はなかなか老に重かりき(虚子)(2014.05.21)
- 後夜聞仏法僧鳥(空海)(2014.05.20)
- 夏といへばまづ心にやかけつはた(毛吹草)(2014.05.19)
- 絵師も此匂ひはいかでかきつばた(良徳)(2014.05.18)
- 神山やおほたの沢の杜若ふかきたのみは色にみゆらむ(藤原俊成)(2014.05.17)
「 おでかけ」カテゴリの記事
- 神山やおほたの沢の杜若ふかきたのみは色にみゆらむ(藤原俊成)(2014.05.17)
- 歌舞伎鑑賞教室(南座にて)(2014.05.16)
- 第三十二回 春の古書大即売会(2014.05.01)
- われわれも花に袖する御室かな(蘭更)(2014.04.16)
- 2014二条城ライトアップ(夜桜)(2014.04.01)
« 吹きはらふ紅葉の上の霧はれて峰たしかなる嵐山かな(定家) | トップページ | 御火焚や霜うつくしき京の町(蕪村) »
コメント