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2012年12月31日 (月曜日)

孫康映雪 車胤聚蛍(蒙求)

 2012年も大みそかとなりました。中国の古典『蒙求(もうぎゅう)』より

孫康映雪 車胤聚蛍(そんこうえいせつ しゃいんしゅうけい)

を鑑賞します。

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孫氏世録曰、康家貧無油、常映雪読書、少小清介、交遊不雑、後至御史太夫

晋車胤字武子、南平人、恭勤不倦、博覧多通、家貧不常得油、夏月則練嚢盛数十蛍火、以照書、以夜継日焉、桓温在荊州、辟為従事、以辯識義理、深重之、稍遷征西長史、遂顕於朝廷、時武子與呉隠之、以寒素博学知名于世、又善於賞會、當時毎有盛坐、而武子不在皆云、無車公不楽、終吏部尚書

(読み下し)

孫氏世録(そんしせろく)に曰く、康(こう)、家貧(いえひん)にして油無し。常に雪に映じて書を読む。少小(しょうしょう)より清介(せいかい)、交遊雑ならず、後に御史太夫(ぎょしたいふ)に至る。

晋の車胤(しゃいん)、字(あざな)は武子(ぶし)、南平(なんぺい)の人なり。恭勤にして倦まず、博覧多通。家貧にして常には油を得ず。夏月(かげつ)には則(すなわ)ち練嚢(れんのう)に数十の蛍火(けいか)を盛り、以て書を照らし、夜を以て日に継ぐ。桓温(かんおん)荊州(けいしゅう)に在り、辟(め)して従事(じゅうじ)と為す。義理を辯識(べんしき)するを以て、深く之(これ)を重んず。稍(ようや)く征西の長史に遷(うつ)り、遂に朝廷に顕(あらわ)る。時に武子と呉隠之(ごいんし)、寒素博学を以て名を世に知らる。又賞會(しょうかい)に善し。當時(とうじ)盛坐(せいざ)有る毎(ごと)に、武子在らざれば皆云う、「車公無くんば楽しからず」。吏部尚書(りぶしょうしょ)に終る。

(意訳)

「孫氏世録」に曰く、孫康(そんこう)の家は貧しくて灯油を買えず、いつも雪に映る明かりで本を読んでいた。幼少より潔癖な性格で、友達を選んで交遊した。後には御史太夫(副首相)にまで出世した。

晋の車胤(しゃいん)は字を武子といい、南平というところの人である。あきることなく勉学に励んで、あらゆる本を読み、多くのことに通じていた。家が貧しくていつも灯油が手に入るわけではなかったので、夏は練り絹の袋に数十匹の蛍を入れて、その明かりで書物を照らし、夜を日に継いで勉強した。桓温(かんおん)が荊州にいたとき、召して従事(属官)としたが、物事の理非をわきまえているというので、深く重んじた。次第に出世して征西将軍の長史(書記長)になり、朝廷にも名が知られるようになった。当時、呉隠之(ごいんし)とともに貧しい境遇にもかかわらず物知りであるということで有名だった。また彼は、宴席での振る舞いがうまく、大きな宴会に彼がいなければ皆、「車公がいないと面白くない」 と言った。吏部尚書(官吏の人事を司る大臣)に昇進して生涯を終わった。

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 苦学して大成した人の話です。いわゆる「蛍の光 窓の雪(蛍雪の功)」です。だれでも知っている言葉ですが、『そんこうえいせつ、しゃいんしゅうけい』と聞くと、また新たな感慨が湧いてきます。

 本当に窓の雪明かりで本が読めるのか? ホタルも数十匹集めれば本が読めるのか? それは疑問ですけど、少なくともそこまでして勉学に励んだ孫康と車胤の志に感動します。何よりも、蒙求のフレーズ(読み下し文)がいいですねぇ。

そんしせろくにいわく、こう、いえひんにしてあぶらなし。つねにゆきにえいじてしょをよむ

しんのしゃいん、あざなはぶし、なんぺいのひとなり。きょうきんにしてうまず、はくらんたつう。いえひんにしてつねにはあぶらをえず。かげつにはすなわちれんのうにすうじゅうのけいかをもり、もってしょをてらし、よをもってひにつぐ

 蒙求は平安時代から読まれていました。「勧学院の雀は蒙求を囀る」と言われたくらい、多くの人々に親しまれたそうです。われわれもこのくらいの文章はぜひ記憶しておきたいものです。ふと思い出して、意味を追いながら口にするだけで感動します。涙が出ます。オレももう少しがんばってみるか…という気になります。

 ※2012年最後の更新になりました。この一年、当ブログを訪問していただいたみなさん、ありがとうございました。

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