手まり唄一ヒ二フ御代の四谷哉(一茶)
一茶の句集をパラパラとめくっていると、しばしば苦笑いする句にめぐりあいます。今回は「七番日記」(岩波文庫上下巻)より、
【手まり唄一ヒ二フ御代の四谷哉】(てまりうたひぃふぅみよのよつやかな)
を勝手に鑑賞します。
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ある日のこと、一茶は幼い女の子がまりつきをしながら数え唄を歌っているのを目撃しました。あるいは通りがかっただけかもしれません。
「ひぃふぅみぃよぅ」、「いちにさんし」、「ひとつふたつみっつよっつ」。
楽しそうに遊ぶ子供の声が、一茶の頭の中にぐるぐる回り出します。なんとかこれらの言葉を使って一句できないものか、と考えます。
ふと浮かんだのが「ひぃふぅ御代」というアイデアでした。「ひとつふたつみっつよっつ」から「四谷」が浮かびます。その日は三日月でした。なので、ついでに「ひぃふぅ三ケ(月)」という掛け言葉もできました…。
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この句、文化十五年二月の項に載っています。「三四(みぃよぅ)」を天下泰平の世の中の「御代」に掛け、場所をだれもがわかる「四谷」に掛け、全体を手まり唄でくくっています。ただよく考えれば、あまりに語呂が良すぎて、掛け言葉が効き過ぎです。きっと一茶は、どこにでもある市井の風景をヒントに創作したのです。七番日記にはこの句の前に
【春もはや立ぞ一ヒ二ウ三ケの月】(はるもはやたつぞひぃふぅみかのつき)
の句があります。後世、自分の句集が読まれることを意識していたのかどうかはわかりませんが、二つの句の出来栄えに、一茶自身がひとり笑いしていたのは間違いないでしょう。
【511】
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