加茂川の流れつづきて今年かな(村山古郷)
村山古郷の句
【加茂川の流れつづきて今年かな】
を鑑賞します。
意訳:平家物語にある白河法皇の「賀茂川の水、双六の賽、山法師、是ぞわが御心に叶はぬもの」という有名な言葉。四条大和大路の「目疾み地蔵」はもともと鴨川の氾濫を嘆いた「雨やみ地蔵」が転化した呼び名だという。堤防の役目をも果たしたと言われる豊臣秀吉の御土居の建設。京都の歴史は鴨川の治水を抜きにしては語れない。そしてまた、波乱万丈と言うべきか、わが人生もようやくここまでたどりついた。新年を迎えた今年、鴨川(加茂川・賀茂川)の流れもわが人生も、絶えることなく続いている。
(賀茂大橋付近)
今出川通の賀茂大橋付近で加茂川(賀茂川)と高野川が合流して鴨川になります。村山古郷(むらやまこきょう・1909-1986)は京都市生まれで、この句は1985年(昭和60年)作のようですから、最晩年の作品ということになります。意訳では、氾濫を繰り返した鴨川の歴史を念頭におきました。京都の住人にとっては、現在でも大雨が降ると、『もしも鴨川があふれたらどうしよう』と心のどこかに不安を持っているものです。ただ、この句では「加茂川」となっていますから、細かいことを言えば、賀茂大橋よりも上流の景を詠んだことになります。おそらく、川の流れを前にした老境の作者の感懐が、京都の歴史と自分の来し方を重ね合わせて、この句に結実したのではないでしょうか。
結句の「今年かな」が、長い時間の流れを思わせてよく利いています。地名俳句としてわかりやすく、心に残る句だと思います。
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