木がらしや目刺にのこる海のいろ(芥川龍之介)
芥川龍之介の
【木がらしや目刺にのこる海のいろ】(こがらしやめざしにのこるうみのいろ)
を鑑賞します。
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この句、木枯らし・目刺・海の色を並列して取り合わせています。本来、目刺(鰯)は有機物ですから寒暖でいえば「暖」。海の色は無機物で「寒」のはずです。ところが「目刺に残る海の色」と言われると、目刺をはぐくんできた海が、途方もない暖かな存在としてわれわれの意識にのぼります。まさに逆転の発想です。木枯らし吹きすさぶ冬の日、夕餉に焼かれる目刺を前にした芥川の直感でしょうか。詩歌を鑑賞していると、ときどき作者の感性に“ドキッ”とさせられることがありますが、この句もそのひとつです。
山本健吉の「現代俳句(角川文庫)」には、
『(前略)…凩の候は新目刺の出初めるころであり、鮮やかな目刺の膚の青さに、したたるような深い海の色を感じ取ったのである。句の形としては古典的なオーソドックスであるが、「目刺にのこる海の色」は鋭い把握である。…(後略)』
とあります。ちなみに季題は「木枯らし」でもちろん冬なんですけれど、実は「目刺」も季語で春なんですよね。ま、この句にそういうことを言う人はいないと思いますけど。
↑ある日のわが家のメインディッシュ。
【529】
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