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2013年3月29日 (金曜日)

山路来て何やらゆかしすみれ草(芭蕉)

野ざらし紀行にある芭蕉の句、

「大津に出づる道、山路を越えて」

山路来て何やらゆかしすみれ草】(やまじきてなにやらゆかしすみれぐさ)

を鑑賞します。

ーーーーーーーーーー

ある日のこと。芭蕉さんがふぅふぅと息を切らして山道を歩いていると、足元にスミレが可憐に咲いているのを見つけました。

『わぁ、こんなところにスミレが咲いている。ここで一句詠んでおきたいなぁ。この感動は、何と言えばいいのかなぁ…、むつかしいなぁ…。何かいい言葉はないかなぁ。あ、そうだ! 【何とはなしに何やらゆかしすみれ草】 ってのはどうだろう。いや待てよ。 “何とはなしに” がイマイチだ。具体的に場所を入れたほうがいいな。う~ん、う~ん…、よし、できた! 【山路来て何やらゆかしすみれ草】 これはいい。これで決まりだ』

なんちゃって。もとより作り話です(笑)

とはいえ、もともとこの句は大津へ出る道で詠んだものではなく、箱根山で詠んだ、いや尾張の白鳥山だ、などと言われており、その際には 『何とはなしに何やらゆかしすみれ草』 であったことが知られています。芭蕉お気に入りの句だったので、推敲の上、大津への道で詠んだことにして、野ざらし紀行に入れたのでしょう。たしかに元の句では、抽象的過ぎて焦点がぼやけてしまっています。

古語辞典(小学館「全訳古語例解辞典」)で、「ゆかし」を引いてみたら

『動詞「行く」の形容詞化した語、そちらの方へ行ってみたくなるほど興味がひかれる、がもとの意。そこから、知りたい見たいなつかしい恋しい、などの意が生まれる』

とありました。なるほど、もともとは「行かし」だったわけですね。あるいは芭蕉の改案した「山路来て」は、「行かし」と対句になっているのかもしれません。ただし言葉の響きという点では “何とはなしに何やらゆかし” が優れていると思います。こちらが初案であったということは、芭蕉が句作にあたって働かせるインスピレーションは、音感すなわち「音楽」に近かったことがわかります。

いずれにしても、一度聴けば忘れない名句です。「山路」→「来て」→「何やらゆかし」→「すみれ草」という言葉の流れ、ホントにすばらしいですね。わずか十七文字でこれだけ美しい日本語表現を生み出すのですから、感激です。

5801

写真は京都市内の某交差点の植え込みに咲いていたものです。これはスミレではなくパンジーですね。私のインスピレーションは、「何やらゆかし」というよりも、「何やらおかし」です(笑)

【580】

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勝手に鑑賞「古今の詩歌」」カテゴリの記事

コメント

遅くなりましたが
お返事ありがとうございました

1話から読ませていただきます
そして思う所を他の日記サイト「日々」に書き始めました
私には全く分からない四文字熟語
昨日は史記からの言葉
苦手で興味なかったことにも
チャレンジしてみようという気持ちにさせていただきました
今日はこれから (その3)の言葉からピックアップ
いつまで続くか分かりませんが
それではまた
ありがとうございました

>無名居士さん

コメントをいただき、驚くとともに、いったい何を書いたのかと読み返した次第です。
面白く読んでいただけたのなら幸いです。
ありがとうございました。

初めてコメントさせていただきます
トップページのコメントの返事の日付が昨日
ブログ更新は休止されていますが
checkなさっていることを知って
コメントさせて頂きます

私は京都市北区在住の
今年12月で72歳になる予定の
無名居士と言います
あるご縁で知ったブログにコメントすることを
今日課としているヒマジンです
今日コメントした記事に書かれた「ゆかし潟」に関連して
「なにやらゆかし」という言葉が思い浮かんだので検索
そのとトップがこちらの記事でした
とても面白く拝見しました 色々勉強になりました
そのことも今日のコメントに書かせていただきました

里恋詩くて・・・熊野・高野
大辺路・湯川
2007/01/09
https://satokoiuta71.blog.fc2.com/blog-entry-1009.html

ご迷惑かとも思いましたが
お知らせするのが礼儀かと思い
コメントさせていただきました

できれば1000話読みたいと
なかなかできることではないと思うからです
その話をたどりたいと
心ひそかに野心?を温めています
さてどうなりますか
飽き性とボケ気味なので 明日には忘れているかも
どうも失礼しました

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