春立つや人の心をうご霞(梅盛)
芭蕉と同時代の京都の俳人高瀬梅盛の句、
【春立つや人の心をうご霞】(はるたつやひとのこころをうごかすみ)
(意訳)あぁ春がやってきたなあ。この春かすみが、人の心を動かすみ…なんちゃって。
を、細かく分解して鑑賞します。
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①、「春立つや」…なんとすばらしい出だしでしょう。読者は、たとえば芭蕉の「春立つや新年ふるき米五升」、時代は下りますが、一茶の「春めくややぶありて雪ありて雪」などの、どっしりとした展開、大きな風景を予想します。
②、「人の心を」…立春の感慨か、気温上昇で春が来たことを実感したのか、春と聞くだけで、だれしもがワクワクするものです。春は人の心に訴えます。「春立つや人の心を」…いいじゃないですか。名句の予感です。結句をどのようにまとめるのか、注目です。
③、で、期待が大きく高まったところで、「うご霞」ときました。アレ? 「うごかすみ」ってどういうこと?…もしかして『動かすみ』 え? 『み』は大きな声で言わないでくれって? (しばらく沈黙) 『人の心を動かす…み』 あちゃー、ナニソレ。笑うしかないってことか~。
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というわけで、上五~中七の期待感の高まりと、結句のオチの切れ味鋭いこと。この句はその落差をこそ楽しまなければなりません。作者の高瀬梅盛は貞門七俳仙のひとりと言われています。まさに貞門俳諧のお手本のような句です。基本的に俳諧とは笑いです。言葉遊びです。「ただのダジャレではないか、つまらない。」 というなかれ。なかなかよく考えられているのです。
【563】
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