送別(王維)
盛唐の詩人王維の「送別」を鑑賞します。
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下馬飲君酒(うまをおりてきみにさけをのましむ)
問君何所之(きみにとう いずれのところにかゆくと)
君言不得意(きみはいう いをえず)
帰臥南山陲(なんざんのほとりにきがせんと)
但去莫復問(ただされ またとうことなからん)
白雲無尽時(はくうん つくるときなし)
意訳:馬から下りて、君に酒をすすめる。「これからどこへゆくつもりだ」 君は言う。「何もかもおもしろくないので、南山のあたりにひきこもるつもりだ」 「そうか、行くがよい。もう何も聞かない。尽きることのない白雲があるさ…」
※南山=終南山、長安の南の山。
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1、この詩のポイントのひとつは結句の「白雲尽くることなし」です。なんともいえない余情を感じます。白雲にはどういう意味が込められているのでしょうか。
①、南山のほとりにひきこもる君を祝福している。②、涙をこらえて空を見上げた私のさびしい心を象徴している。③、二人の友情は永遠だ、あの白雲の尽きることがないように。と呼びかけている。
いずれとも決めかねます。おそらく王維はそのすべてを言わんとしているのでしょう。
2、この詩をすばらしいものにしているもうひとつのポイントは読み下したときの語感です。特に二句目の「君に問う、いずれのところにかゆくと」がいいですねぇ。同じような言い回しの詩をいくつか探してみました。
【問君何能爾(きみにとう なんぞよくしかるやと)】・・・陶淵明「飲酒其五」
【問余何意棲碧山(よにとう なんのいあってかへきざんにすむと)】・・・李白「山中問答」
【笑問客従何処来(わらってとう きゃくはいずこよりきたるやと)】・・・賀知章「回郷偶書」
いずれもよく知られたフレーズです。主語→述語→修飾語(目的語)という、普通の日本語にはない語順、漢文ならではの言い方が、逆に日本語の美しさを際立たせているように思います。
おじさん好みのいい詩ですねぇ。
【557】
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