糸桜を詠んだ古句。
糸桜を詠んだ古句を鑑賞してみます(糸桜=しだれ桜)
①【ほころぶや尻も結ばぬ糸桜】(ほころぶやしりもむすばぬいとざくら)
意訳:『縫ったあとの糸の尻は、結んでおかないとゆるんでほころぶ。寒さがゆるんで糸桜もつぼみがほころぶ。ほころぶつながりやなぁ』
これは、江戸時代初期の京都の俳人、野々口立圃(ののぐちりゅうほ)の句です。なんでも「尻も結ばぬ糸」ということわざがあって、後始末が悪いことのたとえだそうです。ことわざを知らない現代人には、ちとわかりにくいです。
②【腹筋をよりてや笑ふ糸桜】(はらすじをよりてやわらういとざくら)
意訳:『腹はよって笑うもの。糸もよって紡ぐもの。お腹かかえて笑うのは、これがホンマの糸桜』
北村季吟の句です。何がおかしいのかわかりませんが、糸桜を見ながら大笑いしている風景です。笑ふ=満開という意味もあるでしょうが、「糸をよる」と「腹をよる」と、「よる」つながりでシャレているだけです。これではちょっとつまらないと思い、さらに探してみたら芭蕉の句がありました。
③【半日の雨より長しいとざくら】(はんにちのあめよりながしいとざくら)
意訳:『見てごらん、この糸桜。半日続いた雨よりも長いなぁ』
なんのことやら、よく枝垂れているというだけで、この句もイマイチです。調べてみれば、芭蕉の書簡に何者かがあとで書きこんだ疑いがあるとかで、「芭蕉俳句集」(岩波文庫)には存疑の部に載っています。どうやら筆跡が違うようです。
④【ゆきくれて雨もる宿や糸ざくら】(ゆきくれてあめもるやどやいとざくら)
意訳:行き暮れて、あわてて一夜の宿を求めたら雨漏りのする宿だった。『まぁ、庭の糸桜がきれいだから許すとするか』
最後に蕪村です。「この宿、雨漏りしているのか?、と思ったら、まるで雨が降っているかのように、糸桜が窓際へ枝垂れているのだった」 といった解釈も成り立ちますが、あまりにもしらじらしいので、取りませんでした。上のような解釈をしたほうが余情があります。ただ、用語の上でのダジャレはありませんが、糸桜と春雨の、細さつながりを意識していることは間違いないと思います。「糸桜賛」と前書きがあるので、空想の句かもしれません。
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以上の四句が見つかりました。糸桜を詠んだ古句に佳句は少ないようです。多くは言葉遊びの句でした。糸桜の美しさには、何人といえどもテンションがあがり過ぎて、句作どころではないのかもしれませんね(笑)
(二条城にて)
【589】
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