« 「金谷上人行状記」(横井金谷著)を読んで。 | トップページ | 初めての蹴鞠(けまり)見学…白峯神宮にて。 »

2013年4月13日 (土曜日)

人恋し灯ともしころをさくらちる(白雄)

加舎白雄の句、

人恋し灯ともしころをさくらちる】(ひとこいしひともしころをさくらちる)

を鑑賞します。

(意訳)たそがれの灯ともしころ。散る桜。人恋しい。なんとなく…。

ーーーーー

ぼんやりとうす暗くなった桜苑。花の盛りは過ぎて、ひらひらと花びらが舞っています。それだけでなんとなく物悲しいところへ、生暖かい風がふわ~っと吹いてきました。心細く淋しくなって、「だれかそばにいてほしいなぁ」 とため息をつく、そんな場面です。

ひとこいし」から「ひともし」へ、ほぼ同音の言葉を並べて人恋しさを増幅させています。これは掛け言葉(しゃれ)なのでしょうか。自然な言葉の流れは、なんともいえない余韻をもたらし、鑑賞者をうっとりとさせます。語感といい情景といい、散る桜のイメージそのものです。

白雄の秀句」(矢島渚男著・講談社学術文庫)の解説によると、「灯ともしころ」であって、「灯ともし頃」ではないとのことです。なぜかというと、必ず「ひともしころ」と清音で読まなければならないからです。そういうこだわりって好きだなぁ。

とはいえ、こういう句は理屈で読み解いてばかりいてもつまらないです。帰宅時、校庭横の桜でもいい。途中の駅前の桜でもいい。家族待つわが家を思い浮かべながらでも、遠く離れた恋人を想ってでもいい。 散りゆく花の前にたたずみ、『ひとこいし ひともしころを さくらちる』 とつぶやくほうが、鑑賞としてはよほどすぐれています。この句に関しては、鑑賞=感傷です。

ーーーーー

加舎白雄(かやしらお)は蕪村とほぼ同時代の人、天明中興の俳人のひとりです。白雄の句では、この句が一番好きです。

【595】

« 「金谷上人行状記」(横井金谷著)を読んで。 | トップページ | 初めての蹴鞠(けまり)見学…白峯神宮にて。 »

勝手に鑑賞「古今の詩歌」」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 人恋し灯ともしころをさくらちる(白雄):

« 「金谷上人行状記」(横井金谷著)を読んで。 | トップページ | 初めての蹴鞠(けまり)見学…白峯神宮にて。 »