これもまたかりそめぶしのさゝ枕一夜の夢の契りばかりに(俊成卿女)
丸谷才一著「笹まくら」読みました。昨日は読後感想を書きましたが、今回はそのタイトルの由来となっている鎌倉時代初頭の歌人、藤原俊成女(ふじわらのしゅんぜいのむすめ)の歌を鑑賞します。
【これもまたかりそめぶしのさゝ枕一夜の夢の契りばかりに】
(これもまたかりそめぶしのささまくらひとよのゆめのちぎりばかりに)
(意訳)この恋もまた、旅の仮寝の笹まくらのようなものだわ。たった一夜の契りに過ぎないのだから。
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“一夜の夢の契りばかりに”…いいフレーズです。せつなくはかない恋の歌です。さゝ枕とは笹で作った枕のこと。かりそめぶしのさゝ枕で、「笹の葉を枕に敷いた旅の仮寝」というニュアンスです。「さゝ(笹)」の縁語である、かり=「刈り」・「仮り」、ふし=「節」・「臥し」、一夜(ひとよ)=一節、を掛け言葉とした技巧的な歌です。初句のこれもまたが意味深な上に語呂がよく、全体の調子を整えています。
笹で作った仮寝の枕では、ガサガサして十分に眠ることができません。小説「笹まくら」では、徴兵忌避で逃げ回っている杉浦健次が、常に官憲の追及を恐れている比喩に、この歌が使われています。ストーリーにつかず離れずの見事なタイトルです。所詮人生も、はかない夢のようなものでしょうか。徴兵忌避を決意する浜田庄吉、全国を逃げ回る杉浦健次、敗戦後20年も経過して徴兵忌避を口実に左遷される浜田庄吉、作者の丸谷才一、読者の私、それらすべてが、約800年前の俊成女の歌につながったような気がします。
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