一茶の「蝶」の句。
蝶を詠んだ一茶の句をいくつか鑑賞します。
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【あたふたに蝶の出る日や金の番】(あたふたにちょうのでるひやかねのばん)
※あたふた=あわてふためくこと。
強盗にでも入られたのでしょうか? 「蝶があたふたと出た。どこかの店の金庫番もあたふたしている」というのです。あるいは、金の番で一日中忙しく働いている姿を、やぼなことだと言っているのかもしれません。いずれにしても蝶と金庫番の「あたふた」した取り合わせに笑えます。
【吹きやられ吹きやられたる小てふ哉】(ふきやられふきやられたるこちょうかな)
強風にあおられて、あらぬ方向へ飛んで行く蝶です。「吹きやられ」の繰り返しが一茶らしい強調です。
【蝶が来てつれて行けり庭のてふ】(ちょうがきてつれてゆきけりにわのちょう)
庭に蝶が飛んでいるところへ別の蝶がやってきて、そのままつれだって飛び去ってしまったのです。でも、それがどうしたというのでしょう(笑)
【おんひらひら蝶も金毘羅参哉】(おんひらひらちょうもこんぴらまいりかな)
蝶が飛んでいる姿を金毘羅参りに掛けて詠んでいます。「ひらひら」が効果的です。
【蝶行くやしんらん松も知った顔】(ちょうゆくやしんらんまつもしったかお)
「しんらん松」とは信州善光寺にある「親鸞松」のことです。親鸞聖人が善光寺参りの際に奉納したという一本松があるらしいです。そのそばを蝶が飛んでいる。名前は「知(ん)らん松」だけど「知った顔」をしているというわけです。笑ってやってください。
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以上、荻原井泉水編 『一茶俳句集』(岩波文庫)から、オノマトペあり、ダジャレありの、いかにも一茶らしい句を拾ってみました。とはいえ、常人に簡単に詠めるわけでもありません。鋭い観察眼あってこその一茶だと思います。
【624】
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