日の春のちまたは風の光り哉(暁台)
江戸中期の俳人、加藤暁台(かとうぎょうたい、1732-1792)の句を鑑賞します。
【日の春のちまたは風の光り哉】(ひのはるのちまたはかぜのひかりかな)
(意訳)快晴の春の日、にぎやかな町中を風が吹き抜けている。この景気のよさに、まるで風も光っているかのようだ。
※ちまた(巷)=(人が大勢集まっている)町中。世の中、世間。
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さらっと詠んでいるようですが、「日の春」と「風の光」という言い回しは、去来の三冊子(くろさうし)にある芭蕉の言葉 「発句の事は行て帰る心の味也」 を思い出させます。「日光」「春風」の二つの言葉を、一度分断して再構成しているのです。そして俗語の「ちまた」がいかにも俳諧です。市中のにぎわいを感じさせます。作者は名古屋の人です。いつの時代も比較的名古屋は景気がよく、名古屋人は派手好みというのはよく聞く話です。それはこの句にもあらわれていて、いかにも明るい好景気の句だと思います。(「日の春」を新春ととらえる解もあります)
好天のある日、伏見稲荷の前を通りかかりました。「日の春」「風の光」とは、まさにこういう天候をいうのでしょう。伏見稲荷といえば商売の神様。暁台の句の力も借りて、昨今の(われわれにあまり関係のない)株高だけでなく、「ちまた」の景気回復を願っておきました(笑)
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