初夏即事(王安石)
王安石の詩「初夏即事」を鑑賞します。
ーーーーーーーーーー
「初夏即事」(しょかそくじ)
石梁茅屋有彎碕(せきりょうぼうおくわんきあり)
流水濺濺度両陂(りゅうすいせんせんりょうひをわたる)
晴日暖風生麦気(せいじつだんぷうばくきしょうじ)
緑陰幽草勝花時(りょくいんゆうそうかじにまされり)
意訳:石の橋、茅ぶきの家、曲がりくねった川岸。水は土手の間をさらさらと流れてゆく。晴れた日、暖かい風、ただよう麦の香。新緑の木陰、茂る草…、すべて(初夏の風景は春の)花の時よりも美しい。
※彎碕=曲がった岸。
※濺濺=さらさらと流れるさま。
※陂=堤、土手。
ーーーーー
一見、名詞の羅列のような詩は、読み下したときの言葉の流れがすばらしいです。起句「石梁」「茅屋」「彎碕」、承句「流水」「濺濺」「両陂」と、まず遠景から列挙していきます。転句で「晴日」「暖風」「麦気」と肌で感じたり鼻で感じたりするものを挙げています。そして結句では「緑陰」「幽草」と、作者の身の回りの風景、つまり近景を挙げた後に、「勝花時」ですべてをくくっています。いいですねぇ。まさに初夏のイメージです。わずか二十八字に、これだけの展開力表現力があるのですから、たいしたものです。詩人の視線と感動が、鑑賞する者に伝わってきます。この詩を「即事(即興)」で作ったというのがまた憎いじゃないですか!(笑)
王安石(1021-1086)といえば北宋の政治家で、新法の推進者です。私自身は旧法の蘇軾が好きで、これまで王安石の詩はあまり鑑賞したことがありませんでした。今回、いささか考えをあらためた次第です。もっとも、十五歳以上年下の蘇軾は王安石を尊敬しており、互いに交流も深かったと聞いています。政治と詩(文学)とは別物でした。
写真は初夏の鴨川の風景です。この詩は中国だけでなく日本の初夏にもあてはまります。
【639】
« われのみやかく恋すらむ杜若丹つらふ妹は如何にかあるらむ(万葉集) | トップページ | 藤森神社のご利益さん »
「 勝手に鑑賞「古今の詩歌」」カテゴリの記事
- 夏風邪はなかなか老に重かりき(虚子)(2014.05.21)
- 後夜聞仏法僧鳥(空海)(2014.05.20)
- 夏といへばまづ心にやかけつはた(毛吹草)(2014.05.19)
- 絵師も此匂ひはいかでかきつばた(良徳)(2014.05.18)
- 神山やおほたの沢の杜若ふかきたのみは色にみゆらむ(藤原俊成)(2014.05.17)
コメント