夕ぐれは雲のはたてに物ぞ思ふあまつそらなる人を恋ふとて(読人しらず)
古今集恋歌一、読人しらずの歌を鑑賞します。
【夕ぐれは雲のはたてに物ぞ思ふあまつそらなる人を恋ふとて】
(ゆうぐれはくものはたてにものぞおもうあまつそらなるひとをこうとて)
(意訳)夕焼けに照らされた雲の果てを見ていると、ふと物思いにふけってしまう。あの空の向こうの人を恋しているのだと…。
※はたて=果て(旗立てor旗手雲とする解釈もあるようです)
※あまつそらなる人=天上の人(普通は高貴な方と解釈されています)
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いい歌です。三句目の「物ぞ思ふ」でいったん言い切り、四句目五句目でその理由を述べる手法に作歌上のワザがあります。なんといっても最後の「とて」がうまいです。ため息のような余韻を残しています。読人しらずというのが、またいいじゃないですか。作者は男性か女性か? どういう状況で詠まれたのか? とても興味がわきます。それはこの歌が、片思いの典型に相違ないからです。夕焼け雲の美しさまぶしさと、恋する人の輝きが、ひとつにとけあって私たちの心に迫ります。
帰り道に夕焼け空を見ていて、ふとこの歌を思い出しました。昔の恋とともに。
【633】
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