しら雲を吹盡したる新樹かな(椎本才麿)
(きぬかけの道)
京都(近畿地方)は先月末から梅雨入りしているそうですが、雨が降ったのは二三日だけで、このところさわやかな好天が続いています。緑のきれいな季節になりました。芭蕉とほぼ同時代の俳人、椎本才麿の句を鑑賞します。
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【しら雲を吹盡したる新樹かな】(しらくもをふきつくしたるしんじゅかな)
意訳:風に揺れる新緑の木々が、きっと白雲を吹き飛ばしてくれたのだろう。さわやかな青空が広がっている。
この句、あまり知られていませんが、なかなかよく練られた作品です。まず「新樹」という言い方がオシャレです。青葉でも若葉でもなく、季語に「新樹」を使ったのは、上五の「しら雲」とシ音で韻をそろえる意味があったと推察します。初夏の好天の日、作者はゆさゆさ揺れる木々の向こうの青空をたいそう美しく感じました。この句で一番言いたかったのは青空の美しさです。それを青という文字を使わずに表現し、さらに「しら雲」の白、「新樹」の緑と、三色をイメージさせる手法はなかなか見事なものです。
椎本才麿(しいのもとさいまろ、1656-1738)は、大和の生まれ。江戸に出て、芭蕉とも親交があったそうです。そのせいか、才麿の作品はしばしば芭蕉と対比されて、“いまひとつ句に力がない”、“談林の域を抜けておらず理屈に堕ちている” 等の評価を受けることが多い中、この句は佳句と言っていいと思います。三百年前の作品とは思えない、新鮮な印象です。
(伏見稲荷大社にて)
【651】
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