うちわたすおちかた人にこと問へど答へぬからにしるき花かな(小弁)
先日訪ねた府立植物園のあじさい園に、一輪だけ咲いている花がありました。「いったい何の花?」
…というわけで、新古今集より小弁(こべん)の歌を鑑賞します。
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“五月ばかり、物へ罷りける道に、いと白く梔子の花の咲けるを、「かれは何の花ぞ」と人に問ひ侍りけれど申さざりければ”
【うちわたすおちかた人にこと問へど答へぬからにしるき花かな】
(うちわたすおちかたびとにこととえどこたえぬからにしるきはなかな)
意訳:五月のころちょっとした用事で出かけたとき、道端に白いクチナシの花の咲いているのを 「あれは何の花ですか?」 と人に尋ねたけれど、何も言ってくれないので、『ずっと向こうの、遠くにおられる方にまでこの花の名前を聞いたけど返事がありません。…でも、おかげで名前がわかりました。「クチナシ」だったのです』
(新古今集巻16雑歌上)
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この歌、「しるき花かな」がわかりにくいです。「知るべき花かな」と考えていいでしょう。名前を聞いたら返事がない。逆にそれで名前を知ることができた。返事をするにも口が無い…、「口無し」でした。 古今集の旋頭歌に 『うちわたす遠方人に物申すわれ そのそこに白く咲けるは何の花ぞも』 俳諧歌に 『山吹の花色衣ぬしやたれ 問へどこたへずくちなしにして』 があり、両歌を足して2で割ったような作品です。
作者の小弁(こべん)は、平安時代の女流歌人です。目立った作品はありませんが、この歌に関してはちょっと笑えますね。
さてこの花、われわれも名前がわかりませんでした。“あーでもない、こーでもない”としゃべっていると、近くにいたおばさんがクチナシだと教えてくれました。「梅雨の季節に咲くこと」、「果実は漢方薬として使われること」、「花言葉は“幸せ”であること」などなど、とても詳しく教えてくれました。…どうやらクチナシ愛好家には、おしゃべりな方もおられるようです。
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