かさねとは八重撫子の名なるべし(曾良)
芭蕉の門人、曾良の句を鑑賞します。
【かさねとは八重撫子の名なるべし】(かさねとはやえなでしこのななるべし)
意訳:かさねとは、(たとえて言えば)八重撫子の名前だなぁ。
芭蕉が奥の細道の旅で那須野を行くとき、道に迷うと危険だからと馬を借りました。すると馬のあとから女の子がついてきて、名前を聞くと「かさね」と言います。珍しいけど上品な名前だなと、同行の曾良がこの句を詠みました。
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少女の名前を漢字で書くと「重」になります。たまたま道端にナデシコが咲いていました。八重咲きだったのか、かさね→重→八重と連想は広がります。さらに「ナデシコ(撫でし子)」は「撫でたくなる少女」の意味で、結局なんのことはない、“かさねちゃんは撫でたくなるくらいかわいい女の子だったよ~” と言いたいだけのことでした。俳諧初期のころの伊勢の人、荒木田守武(あらきだもりたけ、1473-1549)の句に、
【撫子や夏野の原の落し種】(なでしこやなつののはらのおとしだね)
というのがあります。どちらも「撫子」を詠みこんであること、「那須野」は「夏野」に通じることを考えると、曾良の意識の中には守武の句があったのかもしれません。そうすると、かさねちゃんは高貴な人の落し種(御落胤)だったのかな、と思ったりもしますが、まさかそんなはずはありません。子供ではあったが、高貴な女性を思わせる顔立ちだったということでしょうか。
河合曾良(1649-1710)は信州の生まれ。奥の細道に同行したことで名前だけはよく知られています。作品に有名なものは少ないですが、奥の細道を読む限り、作風は言葉遊びによるものが多く、ダジャレ好きだったように思います。全体に芭蕉の添削が入っているようで、この句は芭蕉の代作とまで言われています。たしかに芭蕉の句を思わせる音感で、記憶に残る作品に仕上がっています。
(フクロナデシコ)
さて、府立植物園でナデシコを見つけました。地中海沿岸に咲くナデシコとのことです。「八重」咲きでした。あと、今年はNHKの大河ドラマを毎週見ています。綾瀬はるかさん、いいですねぇ、おじさん好みです。撫でたくなります…。
え? 何が言いたいのかって? これも「八重」つながりです。
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