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2013年7月 4日 (木曜日)

行行重行行(古詩十九首其一)

文選雑詩上より、古詩十九首 其一を鑑賞します。

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行行重行行(ゆきゆきてかさねてゆきゆく)

與君生別離(きみといきながらべつりす)

相去萬餘里(あいさることばんより)

各在天一涯(おのおのてんのいちがいにあり)

道路阻且長(どうろけわしくかつながく)

會面安可知(かいめんいずくんぞしるべけん)

胡馬依北風(こばはほくふうにより)

越鳥巣南枝(えっちょうはなんしにすくう)

相去日已遠(あいさることひびにとおく)

衣帯日已緩(いたいひびにすでにゆるむ)

浮雲蔽白日(ふうんはくじつをおおい)

遊子不顧返(ゆうしこへんせず)

思君令人老(きみをおもえばひとをしておいしむ)

歳月忽已晩(さいげつたちまちにしてすでにくれぬ)

棄捐勿復道(きえんのことまたいうなからん)

努力加餐飯(どりょくしてさんぱんをくわえよ)

意訳:あなたは遠くへ遠くへ、さらに遠くへ行ってしまわれて、とうとう生き別れになってしまいました。もはや万余里も離れてしまって、お互いが天の涯てにいるようです。会いに行こうと思っても道のりは険しく遠く、とても再びお目にかかれるとは思えません。南方に移された北国の馬は北風に向かって身を寄せ、北方に渡った鳥は南側に面した枝に巣作りをすると申します。故郷が恋しくはないですか。お別れした日は遠い昔のこととなり、今や私はやつれて、衣服の帯が緩くなるばかりです。浮雲が太陽を覆い隠すように、あなたは振り向いてはくれません。あなたのことを思って老け込んでしまいました。歳月はたちまちのうちに過ぎ去ってしまいます。もはや捨てられたなどと愚痴は申しません、どうぞご飯をたくさん召し上がって、お元気でいてください。

※会面=面会

※胡馬、越鳥=北方の馬、南方の鳥(ともに故郷の方角を恋しく思う)

※白日=夫の心にたとえる

※浮雲=障害(別の女にたとえる?)

※遊子=旅人(夫)

※棄捐=捨てられること

※加餐飯=相手に食事をすすめる

 意訳では全体を遠くへ旅立っていった夫を思う詩として鑑賞しました。前半の八句を夫の言葉、後半八句を妻の言葉とする解釈もあります。そのほか、部分部分でさまざまな読み方ができますが、いずれにしても恋の詩であることにかわりはありません。

 まず全体を印象づけているのが一句目の「行行重行行」の畳語です。冒頭からの強調表現はとても効果的で、「重」の字をはさんだ対称形は見た目もいいです。そして“胡馬は北風に依り 越鳥は南枝に巣くう” という対句がいいですね。

『馬でさえも鳥でさえも自分がやってきた方角を意識している。まして人であるあなたが、私とともに過ごした故郷を恋しく思わないはずがない』

 合計十六句の詩に綿々と述べる妻の心は、この二句に集約されています。

 この詩を踏まえて蕪村は「行々てこゝに行々夏野かな(ゆきゆきてここにゆきゆくなつのかな)」と詠みました。炎天下をずんずん歩いていく旅人と夏野の取り合わせは、まさに絶妙の換骨奪胎です。

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行き行きて重ねて行きゆく

君と生きながら別離す

相去ること万余里

各(おのおの)天の一涯に在り

道路阻しく且つ長く

会面安くんぞ知るべけん

胡馬は北風に依り

越鳥は南枝に巣くう

相去ること日に已に遠く

衣帯日に已に緩む

浮雲白日を蔽い

遊子顧返せず

君を思えば人をして老いしむ

歳月忽ちにして已に晩れぬ

棄捐のこと復た道(い)う勿からん

努力して餐飯を加えよ

【677】

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