夏日作(元政上人)
江戸時代初めの僧侶で詩人の元政(げんせい)上人の漢詩、「夏日作」を鑑賞します。
「夏日作」(かじつのさく)
夏日炎炎無奈長(かじつえんえんながきをいかんともするなく)
手揮団扇到斜陽(てにだんせんをふるってしゃようにいたる)
火雲一片不消尽(かうんいっぺんしょうしつくさず)
月在緑陰深処涼(つきはりょくいんのふかきところにありてすずし)
※火雲=雷雲、入道雲
意訳:夏の日は燃えるように暑くて長いのをどうすることもできない。団扇(うちわ)を手に持って日が沈むまであおいでいる。(日没後も)雷雲が一片残って消え尽くさないが、月が樹木の深いところに出てきて涼しくなった。
元政上人(1623-1668)は、京都の生まれ。彦根の井伊家に仕えたのち出家し、伏見深草に瑞光寺を開きました。「夏日作」は、真夏の一日をうまくとらえたわかりやすい詩です。
『夏の日は暑ぅて暑ぅてたまりません。これだけ長い時間暑いと、どうしようもないですなぁ。団扇持って、日が沈むまで扇ぎっぱなしです。ようやく夕暮れ時になっても、まだ入道雲が消えしません。せやけど、あの林の向こうに月が出てきて、なんとか涼しなってきましたわ』
京ことばをまじえて噛み砕けば、作者の言いたいのはこんな感じかな。同じ京都に住む者として、まったく同感です。
元政上人は大変親孝行な人として知られています。なんでも、深草うちわというのを考案して、日々両親を扇いでいたのだそうです。「手揮団扇到斜陽」には、そんな上人の心が込められているのかもしれませんね。
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夏日炎炎長きを奈かんともする無く
手に団扇を揮って斜陽に到る
火雲一片消し尽くさず
月は緑陰の深き処に在りて涼し
【686】
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