おのずから涼しくもあるか夏衣ひもゆふぐれの雨のなごりに(藤原清輔)
新古今集巻三夏歌より、藤原清輔の歌を鑑賞します。
【おのずから涼しくもあるか夏衣ひもゆふぐれの雨のなごりに】(264)
(意訳)自然と涼しくなってきた。日も夕暮れ、夏衣のひもを結うくらいに涼しいよ。夕立ちの雨の名残ということだな。
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新古今集の歌の中でもよく知られたもののひとつです。鑑賞のポイントは二つあります。
一つは「ひもゆふ」です。「日も夕」と「(衣の)紐結う」との掛け言葉、ダジャレです。
もう一つは、全体を倒置法を使って詠んでいることです。素直に歌意を表現するならば、本来は「ひもゆうぐれの雨の名残に、おのずから涼しくもあるか」であるところを、作者は上の句下の句を逆に詠んでいます。倒置法は作者の感動や作歌の意図を強調するために使われます。この歌の場合、なぜ倒置法を使ったのかといえば、先の「日も夕」と「紐結う」のシャレを、簡単には読み解けないようにしてあるのです。いわば、作者はこの歌を“なぞなぞ”としてわれわれに示しているわけです。一読しただけではほとんどの人が「日も夕暮れ」だけに解釈して、「紐結う」にかかっているとは気がつきません。現代人ならば解説書を読んではじめて、『そうか。夕立のあと気温が下がって、着物の紐をしっかりと結ばないと寒いくらいだってことだな。なるほど、これはうまく詠んだものだ』 と感心するのです。また倒置法は言葉の流れをスムーズにし、音感をよくしている面もあるでしょう。三句目の「夏衣」でいったん切って、季節感も強調しています。
『おのずからすずしくもあるかなつごろもひもゆうぐれのあめのなごりに』
三度ほど声に出して読んでみると、この歌のよさがわかります。まさに新古今調。技巧を凝らした、いい歌だと思います。
【676】
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