烏稀に水又遠しせみの声(蕪村)
蕪村の句です。
【烏稀に水又遠しせみの声】(からすまれにみずまたとおしせみのこえ)
(意訳)普段やかましいカラスはめったに鳴かなくなり、渓流の水音も遠くへ行ってしまった。聞こえてくるのは、ただ蝉の声ばかりだ。
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カラスが営巣して、人家近くに出没して頻繁に鳴くのは、だいたい春先から5月にかけてです。「そういえば、このところカラスの姿をあまり見かけなくなったな」
水音といえば梅雨のころでしょう。「しばらく雨も降ってないし…」
「この季節、聞こえてくるのは、ただセミの鳴き声だけだ」
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このように、春から夏への季節の移ろいを詠みこんでいるのだと思います。蝉しぐれを、カラスと水音に取り合わせて演出し、季節感を強調しているわけですね。「俗語を用ひて俗を離る」という蕪村の意図が読み取れます。調べもよく、不思議な魅力を感じる句です。
【703】
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