仰のけに落て鳴けり秋の蝉(一茶)
一茶の句を鑑賞します。
【仰のけに落て鳴けり秋の蝉】(あおのけにおちてなきけりあきのせみ)
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(意訳)道を歩いていると突然セミが飛んできて地面に落ち、ひっくりかえってしまった。それでもまだ鳴き続けている。「セミの季節もそろそろ終わりか。もう秋だなぁ」
一句の眼目が「あおのけに」にあるのは言うまでもありません。寿命を迎えたセミを表現するのにぴったりの言葉です。いかにも羽をバタバタとさせている感じです。上の句形は八番日記のもので、七番日記には、
【仰のけに寝て鳴にけり秋の蝉】(あおのけにねてなきにけりあきのせみ)
とあります。これを擬態語であらわすならば、「ヒューッ」と「ゴロン」の違いで、これは断然「ヒューッ(と落ちた)」のほうがいいですね。同じ句を何年もかけて推敲しているわけで、一茶などは即興で詠んでいるように見えても実際は苦労しているんだなぁ と、むしろそっちのほうに感動します。
【733】
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