燃立て貌はづかしき蚊やり哉(蕪村)
蕪村の句です。
【燃立て貌はづかしき蚊やり哉】(もえたちてかおはずかしきかやりかな)
(意訳)くすぶっていた蚊遣りの火が、急に燃え立った。まわりの人たちの顔が浮かび上がり、視線のぶつかる男女。密かに抱く恋心が、羞恥心となって顔色に見える。
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「蚊やり(蚊遣)」は、今で言えば「蚊取り線香」、もっと言えば「電気蚊取器」です。蕪村のころは、おが屑、青葉、陳皮(みかんの皮)などを焚き、煙を立てて蚊を追い払ったのだそうです。本来はくすぶらせてモコモコと煙をわき立たせるのでしょうが、何かの拍子にパッと燃え立つことがありました。蚊やりのまわりに何人かの人が集まって、その中に好意を持つ二人がいました。炎が燃え立って、暗闇の中にあらわれる恋しい人の顔。ハッとしてポッと顔を赤らめたのは女性でしょうか。中七「かお」、下五「かやり」で頭韻を踏んでリズムもよく、夏の夜の夢ならぬ夏の夜の恋をうまく演出しています。炭太祇の『初恋や灯籠に寄する顔と顔』と好対照の佳句です。
↑現代の蚊やり。これではとても蕪村の時代をイメージできません。当時と比べ、蚊の数は格段に少なくなったものの、煙と風情は全くなくなりました(笑)
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