夕だちの始をはりを濡にけり(常世田長翠)
江戸時代中期の俳人長翠の句、
【夕だちの始をはりを濡にけり】(ゆうだちのはじめおわりをぬれにけり)
を鑑賞します。
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(意訳)…というか、創作。
お得意様からの呼び出しで外出した。炎天下、汗をふきふき歩き、間もなく到着というところで空模様があやしくなる。雷鳴が鳴り響き、大粒の雨が降ってきた。
『わー、夕立だ!』
急ぎのため傘は持ち合わせていない。あわてて近くの軒下に駆けこむも、どしゃぶりの雨を頭に浴びる。
『降り始めからいきなりの強い雨とはな』
手ぬぐいで拭きつつ、雨宿りすること七~八分。用事が気になる。先方は時間にうるさい。雷鳴もおさまって空を見上げた。まもなく止みそうな気もする。
『こんなところでゆっくりしてられない。雨も小降りになったし、先様はすぐそこだ。走って行きゃあ、なんとかなるだろ』
手ぬぐいで頬かむり、着物の裾をからげて走りだした。小降りとはいえ雨は降り続く。道のあちこちに水たまりができている。ビシャッ、ビシャッ。上半身も足元もずぶ濡れだ。着いたころに雨はあがった。
『まさかこんなことになるとは思わなかった。夕立の始め終わりを打たれただけなのに、こんなにぐっしょり濡れてどうしよう。お客様にこんな姿は見せられない。参った~』
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下総生まれの常世田長翠(とこよだちょうすい、1750-1813)は、現在ではなじみが薄いですが、加舎白雄の門人です。奥州を中心に活躍したのだそうです。
この句、客観的に実景を詠んだようにも、頭の中で考えただけのようにも思えます。ただ私自身こういう句は好きで、勝手に場面を想像してみました。実際、ありそうでなさそうで…笑えます。
【713】
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