六月の地さへ割けて照る日にもわが袖乾めや君に逢はずして(万葉集)
万葉集巻十にある、夏の相聞歌です。
【六月の地さへ割けて照る日にもわが袖乾めや君に逢はずして】1995
(みなづきのつちさえさけててるひにもわがそでひめやきみにあわずして)
意訳:六月の、地面が割けるくらいに照らす太陽にも、涙に濡れた私の袖が乾くことはない。…あなたにお会いせずして。
※六月→旧暦。盛夏。
※日→太陽
※わが袖乾(ひ)めや→(涙に濡れた)私の袖が乾くことがあろうか、いや乾くことはない。
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なんという刺激的な歌でしょう! 後世のように「恋ふ」「思ふ」などという情緒的な言葉を使わず、ぎこちないごつごつとした調べながらも、この歌には大自然の中に融合した表現力・情熱がこめられています。
大地が地割れするほど強く照らす太陽にも、私の袖が乾くことはない。愛するあなたに会わないうちは、涙がとめどなく流れてとまることがない。いかに真夏の太陽といえど、あなたを想う私のこの気持ちを干上がらせることはできない。それほど、あなたに恋焦がれている。作者には、真っ赤な太陽に勝る情熱を持っている自負と、土は裂けても私とあなたの間は裂けはしないとの自信があります。
詠み人知らずで、歌の背景も、作者が男性か女性かもわかりませんが、万葉時代も今と変わらぬかんかん照りの日々が続いたものと思われます。ならば今年のこの暑さも、愛の力で乗り越えましょう。
【721】
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