古今著聞集521段
先日、新古今集269番前大納言忠良の歌を鑑賞しました。古今著聞集にこの人物についての逸話があるとのこと。おもしろそうなので、意訳の上鑑賞してみます。
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「普賢寺入道基通粟田口大納言忠良と和歌を贈答の事」
粟田口大納言忠良、ふるき大納言にておはしながら、いとも出仕などもせで、いりこもりておはしける比(ころ)、公家に大納言の御用ありげに聞えければ、「さだめてはがれ給なむず」と世にいひけるに、其儀なかりければ、縣召除目のあした、普賢寺入道殿、彼卿がもとへつかはされける、
【人よりも皮いちもちに見ゆるかなこのいけはぎにせられざりつる】
御返し
【いけはぎにせられざらんもことはりやほねとかはとのひつきさまには】
此大納言は、やせほそりたる人にておはしければ、かくかへしまいらせられけるとぞ。
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(意訳)
「普賢寺入道基通粟田口大納言忠良と和歌を贈答の事(ふげんじのにゅうどうもとみち、あわたぐちのだいなごんただよしと、わかをぞうとうのこと)」
粟田口の大納言忠良という人は、古くから大納言職にありながら、たいして出仕することもなく、家にこもってばかりおられるので、朝廷では別の人を大納言に昇らせたいとの意向があり、「きっと大納言の位を剥奪されるであろう」と世間では噂していた。ところがそのような辞令はなく、縣召除目の朝、兄の普賢寺入道殿が忠良の元に歌を贈られた。
【人よりも皮いちもちに見ゆるかなこのいけはぎにせられざりつる→“人よりもお前の皮は丈夫に見えるよ。ホント、生け剥ぎにされなくて(大納言の位を剥奪されず)よかったなあ”】
その返歌に
【いけはぎにせられざらんもことはりやほねとかはとのひつきさまには→“生け剥ぎにされなかったのも道理です。私は骨と皮がひっついているのですから”】
この大納言は痩せ細った人であったので、このような歌を返されたのだそうだ。
(注)
※粟田口大納言忠良=藤原忠良(ふじわらのただよし)1164ー1225、政治家としてより歌人として知られる。
※縣召除目(あがためしのじもく)=諸国の国司を任命する儀式。毎年1月11日から3日間行われた。
※普賢寺入道=藤原基通(ふじわらのもとみち、1160-1233)、忠良の兄。関白から摂政になった。
※逸物=とびぬけて優れていること。(ここでは「いちもち」と読むようです)
※いけはぎ=生け剥ぎ。生きたままで獣の皮を剥ぐこと。官職を剥奪されるにかけた。
※ひつきざま=くっついている様子。ひっつく様。
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忠良大納言、ガリガリに痩せているから、皮を剥ごう(官位を剥奪しよう)としても、骨にくっついて剥がせないというのですね。二人のやりとりは、今でいえば兄弟漫才のようなもの。この兄弟が生きていたのは、平安時代末から鎌倉時代にかけてです。すなわち摂関政治から院政、源平争乱を経て、武家政治に移る激動の時代だったはずです。にもかかわらずこんな逸話が残されているのは、いかに当時のお公家さんが気楽だったかという証明にもなりそうです。とはいえ、私自身はこういうオチ話大好きです。最後に (笑) をつけたくなります。
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