我ばかり物を思ふと思ひしに夜ただ音になく虫もありけり(樋口一葉)
樋口一葉の歌を一首鑑賞します。
【我ばかり物を思ふと思ひしに夜ただ音になく虫もありけり】
(わればかりものをおもうとおもいしによただねになくむしもありけり)
意訳:(秋の夜)私だけが物思いにふけっているのかと思っていたら、一心に鳴き続ける虫もいたのだわ。
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樋口一葉といえば「たけくらべ」。あまりにも有名なこの小説を、私も読んでみようとチャレンジしたことがあります。でも擬古文とか雅文体といわれる文章は、いかにも冗長で読みにくい。いい話なんだろうなと思いつつも、せいぜいあらすじがわかる程度にしか理解できませんでした。一葉は読みにくいというのが、昔からの私の印象でした。
その点、この歌はわかりやすい。秋の夜長、物思いにふけるのは自分だけだと思っていた。そこへ、虫の鳴き声が聞こえる。それもひたすら鳴いている。あぁ虫よ、おまえも何か思うところがあるのだな。一葉の感受性の豊かさを示すとともに、自然賛歌のような歌でもあります。
一葉は、五千円札の肖像に選ばれてから、より一層もてはやされるようになりました。文庫本の売り上げが伸びたとも聞きました。ただし、途中で挫折する人も多かったとのこと。明治の女流作家として、だれでも名前は知っているけれども、さてどんな作品を書いたのかと問うてみれば、ちょっとわからないとの返事が返ってきます。もう少し長命であれば、きっと文体も変化して現代人にも読みやすい作品が書かれたことでしょう。わずか二十四歳で亡くなったのは、あまりにも残念です。
さて、ちょうど今、手元に五千円札があります。この記事を書くにあたり、肖像を眺めてあらためて思ったことがあります。
樋口一葉って、結構美人なんですね(笑)
【737】
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