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2013年9月 5日 (木曜日)

古今著聞集522段

 古今著聞集巻十六には「與言利口」という項目が設けてあります。「與言利口(よげんりこう)」とは、巧みにものを言うこと、口上手の意味で、いわゆる笑い話を集めてあります。古文を読んで笑うのは当ブログの好むところ。前回は521段を鑑賞しましたが、その次の522段もおもしろい話です。意訳の上鑑賞してみます。

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皇后宮大夫俊成の口遊に或女房連歌の事

 皇太后宮大夫俊成卿、最勝光院の花見侍りけるついでに、御堂あけさせてをがまむとて、あづかりを尋ねけるが、おそくきければ、いかにとかさねていはするに、「かぎを求め失ひて」とこたへけるを聞きて、なにとなく口ずさみに、

かぎあづかるもしやうの大事や

 といはれたりけるを、こともなき女房のありけるが、うち聞きて、とりもあへず、

あけくれはさせることなきものゆゑに

 と付けたりける。たはぶれにても俊成卿のいひいだしたる事に、きもふとくぞ付ける。女はなをおそろしきものなり。

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(意訳)

皇后宮大夫俊成の口遊に或女房連歌の事(こうごうのみやのたいふとしなりのくちずさみに、あるにょうぼうれんがのこと)」

 皇太后宮大夫俊成卿が、最勝光院の花見に行ったついでに、お堂を開けさせて拝礼しようと、管理人を尋ねたが、時間がかかってなかなか来ないので、「いったいどうしたのだ」と何度もおっしゃった。「カギを探しているのです。どうやら失ったようです」と答えるのを聞いた俊成卿は、何気なくひとりごとに

かぎあづかるもしやうの大事や→錠(カギ=じょう)を預かるのも大事な常(じょう)の仕事であろう】

 とおっしゃるのを、近くにいたこれということもない女房が聞いて、即興で

あけくれはさせることなきものゆへに→朝から晩までさしたる仕事もないのにねえ】

 と付句をした。たわむれとはいえ、俊成卿の言われたことに、気後れすることなく付句をするというのは、いい根性をしている。やはり女はおそろしいものだ。

(注)

※口遊=口に出るままに詩歌を吟じること。くちずさみ、と読むようです。

※俊成卿=藤原俊成(ふじわらのとしなり、しゅんぜい)

※最勝光院=東山区今熊野付近にあった寺院のこと?。1226年(嘉禄2年)焼失。

※あづかり=管理人のこと。

※しやう(じやう?)の大事や=「しやう」ならば「生」で一生の大事な仕事。「「じやう」ならば「常」で、普段の大事な仕事。ここでは「じやう」と解釈しました。

※させることなき=カギを「さす」、「さし」たる用事もない、をかける。

※きもふとく=肝太く

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 藤原俊成が花見のついでに、お寺のお堂を拝観したいと言います。普段は開かずのお堂だったのでしょう。久々に開けようとした管理人、どこに置き忘れたのかカギが見つかりません。あわてる管理人に、俊成が「錠」と「常」のシャレで歌をつぶやきました。

 『錠は常から大事にしておかなければいけないよ』

 と、その場にいた女房が

 『朝晩、カギをさしているだけで、さして仕事もないのにね』

 と、お返しをしたわけです。なんでもない女房なのに、なんと機転の利いた付句でしょう。最後は、“俊成卿のような貴人によくぞ言ったものだ。やはり女は恐ろしい” で締めくくっています。この、『女はなをおそろしきものなり』の『なを』がいいじゃないですか。逸話の筆者は、もともと女はおそろしいものだと感じているからこそ、『なを』を付け加えたわけですね。私も同感です。

 ちなみに古語の「恐ろしき」には、現代語の恐怖・危険のほかに、たいしたものだ・驚くほどだ、の意味が込められています。念のため(笑)

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