秋の野に人まつ虫の声すなり我かと行きていざとぶらはむ(よみ人知らず)
古今集よりよみ人知らずです。
【秋の野に人まつ虫の声すなり我かと行きていざとぶらはむ】
(あきののにひとまつむしのこえすなりわれかとゆきていざとぶらわん)
(意訳)秋の野に松虫の鳴き声が聞こえてくる。「待つ」虫というくらいだから、誰かを待っているのだろう。もしや私かもしれないから、いざ、訪ねてみるとするか。
ーーーーー
数日前のこと、かかりつけのお医者さんに血液検査の結果を聞きに行ったときのことです。待合室に座っていると、看護師に名前を呼ばれました。
「○○さ~ん(私の姓です)」
1時間近く待たされていたので、いささかうんざりした気分で椅子から立ちあがりました。…と、私の前を、大柄なおじさんが診察室のほうへ歩いていきます。
「あれ? 私の番じゃないの?」
ここで、もう一度看護師が声を発しました。
「○○ ヒロ△さ~ん」
「え?」
私の名前はヒロ△×です。どうやら、同姓で名前も一字違いのおじさんが先に呼ばれたようです。診察室前に立つ看護師は決まりが悪そうに、
「ホントやねぇ、○○さんが二人続いたんやねぇ。ごめんなさい。次に呼びますから」
わざとらしく作り笑いを浮かべました。もう一人の○○さんも、私のほうを見てニッコリ笑って診察室に入っていきます。私は渋い顔をして、椅子に座りなおしました。
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というわけで、表題歌の「よみ人知らず」さんに苦言です。マツムシの声がしたからと言って、必ずしもあなたを待っているとは限りません。しっかり確認してから、訪ねて行きましょう。そして看護師さんにも苦言です。患者の名前を呼ぶときは、ぜひフルネームでお願いします。
【789】
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