冬の夜や針失うて恐ろしき(梅室)
江戸時代末期の俳人、月並調の大家ともいわれる桜井梅室の句です。
【冬の夜や針失うて恐ろしき】(ふゆのよやはりうしのうておそろしき)
(意訳)冬の夜更けの縫い物。ふと針が一本足りないことに気づいた。まわりを探しても、着物をはたいても見つからない。踏めばもちろん、着物についていてもアブナイ。背筋が寒くなる。 『どこいったんや…。早よ見つけんと…。このままでは寝られへん…』 凍るような寒さと相まって、不安が増す。
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“冬の夜の不気味さがよく出ている”、“わざとらしさがない”、と梅室の句にしては佳吟と評価されています。たしかに梅室のほかの作品、
「鶯や二声聞けば見たくなる」
「萩の花一本折ればみな動く」
などと比べると、数段すぐれているように思います。
電気照明のない時代、失せ物は行灯(あんどん)の薄暗い明りを頼りに探すしかありませんでした。まして、無くなったのは「針」です。人はスリッパを履かず、子供でもいれば大変です。現代とは数倍の不安・恐怖心があったと思われます。
とはいえ、やっぱり感動の一句とは言い難いです。『針がなくなって恐ろしい』と言われても、『それがどうした、早く見つけな!』と返すしかないです(苦笑)
【872】
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