氷る夜や諸手かけたる戸の走り(白雄)
白雄の句です。
【氷る夜や諸手かけたる戸の走り】(こおるよやもろてかけたるとのはしり)
(意訳)万物が氷りそうな極寒の夜、固まって動かない戸を両手で押したら、今度は勢い余ってガタガタと大きな音を立てて走り出した。
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古家で建てつけが悪くなったのか、なかなか動かない戸を両手で力任せに押したら、今度は急に走ってビックリしたというのですね。ここでいう「戸」は、要するに滑りの悪い戸をイメージすればいいのでしょうけど、昔の雨戸が思い浮かびます。
筆者の子供のころの旧家では、親から、夜寝る前に雨戸を閉めてくれと言われ、戸袋から出すだけでも大変でした。一枚一枚引っ張り出して順に送っていく際、滑りのよい戸、悪い戸があって、開け閉めにちょっとしたコツがありました。その日の気温や湿度によってうまくいかないことがあり、「クソッ、腹の立つ」と言いながらガタガタさせていたのを思い出します。そういえば、最近は雨戸のない家が多いですね。もしかして今の時代、雨戸は絶滅危惧種なのでしょうか?(笑)
句としては、いかにも固まった感じのする「氷る夜」がよく効いています。「戸の走り」という表現もおもしろいです。ようやく動いた板戸に、作者のイライラが消えて快感となった瞬間をとらえています。佳句とは言わないまでも、『昔の雨戸にはそういうことがあったなぁ。懐かしいなぁ』 というノスタルジーを感じます。
【879】
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