春はただわが宿にのみ梅咲かばかれにし人も見にと来なまし(和泉式部)
後拾遺集春上より、和泉式部の歌です。
【春はただわが宿にのみ梅咲かばかれにし人も見にと来なまし】
(はるはただわがやどにのみうめさかばかれにしひともみにときなまし)
(意訳)春になると、それまで“枯れ”ていた梅にきれいな花が咲く。それが、もしも私の家だけのことだったら、きっと“離(か)れ”ていった“彼”も、見たくなって戻ってきてくれるのに。(でも現実には、梅の花は自宅の庭だけでなく、隣の庭にも向かいの庭にも咲くわ。同じように、彼の眼を引くきれいな女もあちらこちらにいるのね。私の元に来てくれることはもうないのかしら…)
ーーーーー
この歌、古来より「かれ」に“枯れ”と“離れ”を掛けているのは、よく指摘されるところですが、現代的にはさらにいろんな「かれ」を掛けて解釈してみたいです。恋人(彼)に好かれたい、腕に抱かれたいという作者の可憐な思いが、咲き始めた梅の花とともに、春の訪れへのあこがれとなって、このような歌になるのでしょう。つらい別れが作者の心を支配しています。
というわけで、単に言葉遊びの技巧を凝らしただけと言うなかれ。なかなかよくできた、華麗な歌です。
※勝手(下手)な鑑賞であることをお断りしておきます。
(北野天満宮にて)
【916】
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