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2014年2月11日 (火曜日)

くすり喰人にかたるな鹿ケ谷(蕪村)

 蕪村の句です。

くすり喰人にかたるな鹿ケ谷】(くすりぐいひとにかたるなししがたに)

(意訳)今宵、獣肉を食べていることは、決して人に語ってはいけない、鹿ケ谷の謀議と同様に。  

 1、蕪村の生きていた時代は、殺生を禁じる仏教思想の影響から、獣肉を食べることは禁忌とされていました。しかし肉食がまったくなかったかわけではありません。病人の滋養になることは知られていましたし、なんといっても肉の味はおいしく、一度食べると癖になります。冬の寒い季節は、一層肉食への欲求が高まります。肉は薬と称して食され、その際用いられた隠語が「薬喰」です。俳句の世界では現在も冬の季語として生き続けています。

 2、「鹿ケ谷」は、平家物語で知られる京都東山の地名です。後白河院の近臣の僧俊寛・西光、藤原成親、平康頼などが、平家打倒の密議を凝らしたとされる鹿ケ谷の陰謀のあった場所です。

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 この二つを取り合わせたのが表題句です。単なる「鹿肉」と「鹿ケ谷」のシャレではありません。句の眼目は、「薬喰」→「肉食(鹿肉)」→「鹿ケ谷」→「謀議」→「語るな」→「秘密」→「薬喰」…という連想の妙にあります。表計算ソフトならば循環参照でエラーが出そうです。コンピュータも悩ます蕪村の句です。

 蕪村の「薬喰」の句は十句近く残されています。いずれもが人目をはばかりつつ薬喰を楽しんでいるふうで、当時肉食が禁忌と言っても、いわば“公然の秘密”の印象です。そしてまた、鹿ケ谷の謀議も多田行綱の密告によって平清盛の知るところとなり、“秘密が公”になります。このように、秘密が秘密でなくなるところにも、薬喰と鹿ケ谷には共通点があるんですよねぇ。 あっぱれ蕪村! ますます蕪村のファンになりそうです。

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 というわけで、今宵はわが家も薬喰にしました(笑)

【899】

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