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2014年2月10日 (月曜日)

なき名のみたかをの山と言ひたつる君はあたごの峰にやあるらむ(八条の大君)

 愛宕山を詠んだ歌。拾遺集巻九雑下より、八条の大君の歌です。

「高尾にまかりかよふ法師に名立ち侍けるを、少将滋幹が聞きつけて、まことかと言ひ遣はしたりければ」

なき名のみたかをの山と言ひたつる君はあたごの峰にやあるらむ

意訳:何の関係もない人のことを声高に言い立てるあなたは、私を仇(あだ)のように思っているのではないですか。

8981 (愛宕山)

 愛宕山は比叡山とならんで、京都市内からよく見える山です。愛宕山を詠みこんだ歌としては、拾遺集のこの歌が初出なのだそうです。

 詞書によると、「八条の大君と高雄で修行する法師との間に浮いた噂が流れ、大君の恋人の少将滋幹が、噂は本当ですか、と言ってきたのでこの歌を詠んだ」 とあります。『“”尾の法師とのありもしない噂を、声“”に言ってくるのは、私のことを“あた”ご山ではないですが、“あだ”のように思っているのではないですか』 と、シャレを連ねて返事しています。愛宕山と高雄山は隣り合わせの山で、掛け言葉が成り立つのです。詞書がなければ意味不明のこの歌、あらぬ疑いをかけられた八条の大君のムッとした様子が、歌の調子に見てとれておもしろいです。

 八条の大君(おおいきみ)の歌はこの一首が知られているのみで、どのような人なのか詳細はわかりません。少将滋幹(しげもと)のほうは、今昔物語集巻二十二「時平の大臣、国経大納言の妻を取る語」に出てくる、国経と五十歳ほども年の離れた美人妻との間に生まれた子供です。物語の中では直接登場しませんが、題材にとった谷崎潤一郎の小説「少将滋幹の母」で有名です。ただし、歴史的には影の薄い人物で、まさか拾遺集の詞書に名前が記されているとは知りませんでした。絶世の美女であった母親の面影を何十年も胸に抱いていたあの滋幹が、実はやきもち焼きだったとはねぇ。

 「少将滋幹の母」の感動的なラストシーンを思い出して、いささかがっかりした次第です。

【898】

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