水もなく舟も通はぬこの島にいかでか海人のなまめかるらむ(輔相)
拾遺集巻七「物名」より輔相の歌です。
「このしま(木島)にあまのまうでたりけるを見て」
【水もなく舟も通はぬこの島にいかでかあまのなまめかるらむ】
(みずもなくふねもかよわぬこのしまにいかでかあまのなまめかるらん)
(意訳)「木島神社に(きれいな)女性が参詣しているのを見て詠んだ歌」水もなく舟も通わないこのしまで、どうしてあまたちが海藻(なまめ)を刈るのだろう。(おまいりしている女性は、なんとなまめかしい女性だろう!)
※あま=「海女」と「尼(女性の意)」をかける。
※なまめ=「生和布(ナマワカメ)」に、「なまめかしい(艶かしい)」をかける。
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(木島神社=蚕の社)
右京区役所からほど近い木島神社は、蚕の社(かいこのやしろ)として知られています。このあたりは渡来系の秦氏が本拠としたところで、養蚕、製糸が盛んに行われたことが由来とされます。「木島(このしま)」の名称は、遠望すれば「木の島」のように見えるからだとも言われます。たしかに現在も鬱蒼とした森に囲まれていて、いかにも鎮守の森の雰囲気です。
(三面鳥居)
また蚕の社は京都三珍鳥居のひとつ、三面鳥居(三つ鳥居)があることでも知られています。鳥居の下から泉が湧き出るらしいですが、訪問時はまったく枯れていました。池は祈雨の際に祭壇になったとのことで、足を浸すとしもやけにならないともいわれているそうです。
(鳥居前の池)
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表題歌の作者、藤原輔相(ふじわらのすけみ)は生没年未詳、平安時代中期の無官の人と伝えられます。物名歌に長じ、拾遺集の物名歌の半分は輔相の作です。この歌は掛詞、というかダジャレの連続です。現代的に言えば、神社で出会った美人に対して、オヤジギャグ連発というところでしょう。こういう言葉遊び好きって、いつの時代にもいるものです。当ブログ好みの歌です。…とはいえ、歌の意図に反して、女性に好かれるタイプではなかったでしょうねぇ(笑)
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