たれこめて春のゆくへも知らぬまに待ちしさくらもうつろひにけり(藤原因香朝臣)
古今集春下より藤原因香の歌です。
「心地そこなひてわづらひける時に、風にあたらじとて、おろしこめてのみ侍りけるあひだに、折れる桜のちりがたになれりけるを見てよめる」
【たれこめて春のゆくへも知らぬまに待ちしさくらもうつろひにけり】
(たれこめてはるのゆくえもしらぬまにまちしさくらもうつろいにけり)
意訳:(気分を損なって病んでいた時、風に当たらないようにと、すだれなどを下ろして閉じこもっている間に、折って生けてあった桜も散り際になったのを見て詠んだ歌)引きこもって春の行く先も知らぬ間に、待ち焦がれていた桜も、移ろって散ってしまったことだ。
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徒然草137段に引用されていることでも知られる歌です。詞書によると、病のため外気に触れることなく春をやり過ごしてしまった際に詠んだ歌とのこと。「たれこめて」、「うつろひにけり」という表現が効果的で、散りゆく花と相まってけだるい雰囲気を醸し出しています。
作者の藤原因香(ふじわらのよるか、生没年未詳)は、「朝臣」とあるのでてっきり男性かと思いきや、女性で従四位下典侍の身分だったそうです。なるほど、なまめかしい色気を感じます。調べもよく、心に残るいい歌ですね。
【967】
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コメント
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藤原因香でたどりつきました。
よるか・・・いい名前ですよね。
「一寸法師」を創作したときに、彼女に登場していただきました。
投稿: なおぼん | 2014年10月17日 (金曜日) 16時54分