花の香を鼻で尋る山路哉(貞徳)
犬子集巻二より、松永貞徳の句です。
【花の香を鼻で尋る山路哉】(はなのかをはなでたずねるやまじかな)
(意訳)花の香りを、鼻で嗅いでたずね歩く。そんな山路であることよ。
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「花」と「鼻」をかけました(笑) ダジャレもダジャレ、現代ならばまったくのおやじギャグで、意訳するのも恥ずかしいくらいの句です。貞徳のダジャレの句を、もう一句挙げてみます。
【さかぬ間の春は桜のはなし哉】(さかぬまのはるはさくらのはなしかな)
(意訳)春が来たといっても花の咲くまでは、桜もただの“はなし”だなぁ。
今度は「話」と「葉無し」をかけました(笑) 先の句よりはかなりひねりが加わっていますけど、言語遊戯に過ぎないのは同じです。きっと頭の回転の早い人だったのだと思います。
松永貞徳は、江戸時代初期、俳諧の世界で大流行した貞門の総帥でした。和歌・連歌・古典・故事に通じた大先生で、弟子を育てるのが上手でした。現代人の感覚では、こんな句を詠んでいてよくぞ多くの弟子がついてきたものだと思いますが、季節感と五七五のリズムはしっかりしています。なんといっても、題材が単純で万人受けのしやすいところがよかったのでしょう。貞徳はまた、人をホメるのがうまかったらしいです。どんな世界でも、流行するときにはそれなりの理由があるものです。
【958】
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