さくら花ちりぬる風のなごりには水なき空に浪ぞたちける(貫之)
古今集春歌下より、紀貫之の歌です。
「亭子院歌合の歌」
【さくら花ちりぬる風のなごりには水なき空に浪ぞたちける】
(意訳)桜の花びらが散っていく、その風の“なごり”には、まるで水の無い空に波が立っているようだ。
ーーーーー
貫之の歌の中でも、よく知られた歌です。桜の開花情報を追っていくと、「つぼみ」「ちらほら」「三分咲き」「五分咲き」「満開近し」「満開」「散り初め」「落花盛ん」などとあります。貫之は「落花盛ん」の状態を、“水のない空に波が立っているようだ”と、見立てました。
ポイントは「なごり」です。同音異義語の「名残(なごり)」と「余波(なごり)」をかけています。春風がさあーっと吹いて、次から次へと花びらが散っていきます。「名残」は、余韻と解釈すればいいでしょうか。ひとしきり散ったあとの余韻が、「余波」のように見えるというのです。「余波」を「なごり」と読ませるのは、「波残り(なみのこり)」が「なごり」になったためです。落花盛んの景を、実際に岸辺に打ち寄せる波にたとえて表現しつつ、「名残惜しい」の意味も重ねているように思えます。単なるダジャレと言ってしまうには惜しい、ハイレベルな言葉遊びです。
『さくらばな ちりぬるかぜの なごりには みずなきそらに なみぞたちける』
…いいですねぇ。日本語がきれいです。ぜひ、声に出して読みたい歌のひとつです。
(宇治川畔にて)
【957】
« 雀巣くふ石の華表や春の風(漱石) | トップページ | 花の香を鼻で尋る山路哉(貞徳) »
「 勝手に鑑賞「古今の詩歌」」カテゴリの記事
- 夏風邪はなかなか老に重かりき(虚子)(2014.05.21)
- 後夜聞仏法僧鳥(空海)(2014.05.20)
- 夏といへばまづ心にやかけつはた(毛吹草)(2014.05.19)
- 絵師も此匂ひはいかでかきつばた(良徳)(2014.05.18)
- 神山やおほたの沢の杜若ふかきたのみは色にみゆらむ(藤原俊成)(2014.05.17)

コメント