朧夜や顔に似合ぬ恋もあらん(漱石)
夏目漱石の句です。
【朧夜や顔に似合ぬ恋もあらん】(おぼろよやかおににあわぬこいもあらん)
(意訳)今宵は朧夜。こんな夜には、きっと顔に似合わぬ恋もあるだろうな。
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明治30年、漱石三十歳の作品とのこと。生暖かい風が吹いて、気分のぼんやりした春の夜。こんな夜に男女が出会うと、きっと顔に似合わぬ恋もあるだろう、というのです。そりゃそうでしょう。朧夜だけに視界が悪く、お互いの顔がよく見えませんからね(笑)
この句、決して「だれが」という特定の人物の外観を言ってるのではなく、「朧夜」のイメージを「顔に似合わぬ恋もあらん」ととらえたところに眼目があります。万人受けするユーモアの句と解釈したいです。芭蕉に『顔に似ぬ発句も出でよ初桜』の句があり、この句との類似性が指摘されます。私自身は、源氏物語の末摘花を思い出しました。単純に笑えます。
【992】
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