「乗数効果」をそれなりに説明してみた
「乗数効果」をウィキペディアで調べると『生産者(企業や政府)が投資を増やす→国民所得が増加する→消費が増える→国民所得が増える→さらに消費が増える→・・・という経済上の効果を意味する。云々』とあります。
ケインズが主張した考え方ですが、これがなかなかわからない。さて、どうしてそういう効果があるのか、考察してみたいと思います。
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基本的に経済とは供給と需要の関係であらわすことができ、供給=需要となるように動く。
①、「供給」とは?
●社会全体の生産量に置き換えることができる。
たとえば、トヨタが車を1万台作って、1台500万円、合計500億円で売ったとする。そのうち、
1、鉄板は別会社から買った=200億円(原材料費)
2、タイヤは別会社から買った=100億円(原材料費)
3、その他材料は別会社から買った=100億円(原材料費)
売上(供給)500億円=原材料費400億円+利益(所得)100億円
→利益100億円の内訳は、労働者(従業員)の賃金費用+トヨタの利潤
(この際、その他の経費はトヨタの利潤から差し引くと考える。利子・地代なども同様。労働者の賃金費用はとりもなおさず労働者の所得。トヨタの利潤は当然トヨタの所得である)
以上から、供給=原材料費+所得(1)であることがわかる。
②、「需要」とは?
●社会全体の購入費用のことと要約できる。
それには次のようなことが考えられる。
1、消費者がものを買う費用=消費
2、企業が生産活動をする上で原材料を買う費用=原材料費
3、企業が設備や在庫を増やす費用(トヨタが車を生産するために作る工場や機械を買う費用、また販売をスムーズに行うために在庫しておく車の費用)=投資
よって 需要=消費+原材料費+投資(2)になる。
③、常に「供給=需要」となるように世の中は動くから…
所得+原材料費(1)=消費+原材料費+投資(2)
整理して両辺から原材料費を消すと、
所得=消費+投資(3)
が導かれる。
④、ここで所得の内訳について考えてみると、われわれは所得の大半を消費にまわして、残りは貯蓄する。すなわち…
所得=消費+貯蓄(4)
という計算式が成り立つ。(3)と(4)によって
投資=貯蓄(5)
となり、投資と貯蓄とは等しいということが導きだされる。
⑤、次に(3)式をもう一度考えてみる。
所得=消費+投資(3)
この式で、もしも投資が増えれば所得が増すことがわかる。所得が増えれば消費が増える。で、消費が増えると、また所得が増え・・・、という関係が続いていくことがわかる。
⑥、では、消費の量は所得とどのような関係があるのだろうか?
ケインズは所得の大きさによって消費の大きさが決まる、と考えた。その大きさは「所得の増加するほどには消費は増加しない(人間の心理面より)」とした。所得増加前の消費性向を平均消費性向、増加後の消費性向を限界消費性向といい、次の図のようになる。
(平均消費性向)→現在の所得水準で、どのくらいを消費に回すか
(Y0の所得水準で平均消費性向=1、Y1の所得水準で 平均消費性向=C1÷Y1)
(限界消費性向)→増加した所得のうち、どのくらいを消費に回すか
(Y1の所得水準で平均消費性向=C1÷Y1、Y2の所得水準で 限界消費性向=C2÷Y2)
⑦、限界消費性向によって…
投資金額に対して、最終的に所得の増加分はどのくらいになるかというと、数学的に「無限等比級数の和」として求めることができる。たとえば、いま投資金額を100億円として限界消費性向を0.9とすると、初項を100、公比を0.9とする無限等比級数の和となる。
①100+90+81+72.9+・・・=所得の増加
同じように、最終的に消費の増加分はどのくらいになるかというと、初項を90、公比を0.9とする無限等比級数の和となる。
②90+81+72.9+・・・=消費の増加
貯蓄の増加分は、初項を10、公比を0.9とする無限等比級数の和となる。
③10+9+8.1+・・・=貯蓄の増加
このように、もしも100億円の投資があり、限界消費性向が0.9だとすると、所得の増加は10倍の1000億円になることがわかる。貯蓄については、投資=貯蓄(5)なので、投資金額と同額の100億円になるとも考えられる。
以上、投資の増加が何倍の所得を生み出すか、ということをとらえる理論を「乗数理論(乗数効果)」という。
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参考資料:「ケインズ(伊東光晴著)」岩波新書